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「無垢なる呪い」クレオの夏休み かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0無垢なる呪い

2025年1月13日
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シンプル・イズ・ベスト。余計な装飾をそぎおとしたフランス映画らしい1本だ。ジョージア系フランス人のマリー・アマシュケリ監督を、実際6歳になるまで育ててくれたポルトガル人ナニー(乳母)がモデルになっているという。ずっと前にママを癌で亡くしたクレオは、いつも一緒にいてくれるナニーのグロリアが大大大好き。でも母親の急死でグロリアは故郷のカーボベルデに帰国しなければならなくなって...

このクレオとナニーのグロリアとの超クローズアップシーンがとにかく印象的で、メガネっ子クレオを演じたルイーズちゃんのクルクルと変化する無邪気な顔の表情を余すことなくとらえている。監督はジャック・ドワイヨン監督の『ポネット』にオマージュを捧げていると語っていたけれど、クローズアップ多用などはむしろアブデラティフ・ケシシュ監督の『アデルブルーは熱い色』なんかを参考にしているのではないか。

片時もグロリアの側を離れたくないと思っている少女クレオの熱い気持ちが、どストレートにこの顔面クローズアップから伝わってくるからである。そして、少女の回想とも夢ともとらえられる手書きアニメーションによって、なんともいえないアクセントがこの映画に生まれている。母親代わりにいつも自分を支えてくれたグロリアへの愛、そしてさけられない別離への葛藤... お財布にも優しいこの女性らしい演出が、少女とナニーの関係をより純化させているのだ。

フランスに出稼ぎにきていたグロリアは、そこで貯めたお金を元手に地元でホテル事業を立ち上げようと計画中。ナニーのお給金でホテル建設?EUフランスとカーボベルデの経済格差を思わず感じさせる1コマだ。ずっと家をあけていたグロリアに息子セザールは反抗的、妊婦の長女も出産への不安をのぞかせていた。つまり、クレオの世話するためにグロリアがフランスに長期滞在していたせいで、本来の家族がその犠牲になっていたのである。

6歳の少女はバカンスをカーボベルデで過ごしているうちに、グロリアには別の家庭がちゃんとあって決してフランスには戻らないことを、疎外感とともにだんだんと学びとっていくのである。でも、もし赤ちゃんが死んじゃえば、グロリアは私と一緒にフランスに帰れるかもしれない....無垢なるクレオの悪魔へのお願いにあなたの涙腺はもののみごとに崩壊することだろう。そして、ついに少女はグロリアからの自立を決意、崖から海へと決死のダイブを試みるのであった。

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かなり悪いオヤジ