「何本かぶりに心和らぐような鑑賞時間だった」クレオの夏休み humさんの映画レビュー(感想・評価)
何本かぶりに心和らぐような鑑賞時間だった
幼い感情は遠慮とは無縁だ。
握り締めた果実からいくつもの香りと果汁がはじけるような奔放な眼差しになん度も心を掴まれ、あるいはそれとは違った自分の幼少期を頭の片隅に思いうかべながら観た。
乳母グロリアに守られたパリでの暮らしとグロリアの故郷アフリカで過ごす夏休みのクレオ。
大好きな乳母を独占できなくなるクレオに目線をあわせていると、そこには母の不在を過ごしていた娘や息子の内なる気持ちがもやりと渦巻くのがわかる。
〝経済的〟な実情の示唆はさらりと皮肉的だ。
あんなに明るく愛情深く振る舞うグロリアとまわりの葛藤が伝わる。
そして文化や風土、風習が年月をかけ色付けする〝パリでは見えなかった〟グロリアという女性が形成されてきた道のりのようなものをリアルに感じとるのだ。
幼くして母を失ったクリオが本能的に求める愛、大切な人の不在にまだ理解もできないであろう自分を弄ぶ奥底の感情がアニメーションによって表されるとすこし切ない。
でも、そんな切ないこともある人生をどうかたくましく生きてと祈り、やがて胸のなかでそれが命やまわりへの感謝に変わる日がちゃんと訪れることを願いたくなるのは、グロリアの存在感があるからなのだろう。
じりっと照らす灼熱の太陽の光と木陰から抜けるいたわりの風。
そのなかに、まだまだ無邪気なクレオにも、彼女とそう変わらない年のグロリアの息子にも、とても若いママになった娘にも何かがすこしずつ動いたのが見えた。
成長期のこどもにとって傍らでそっと支えてくれる人の存在がもたらすものがどれだけ大切なのか。
その温度を知った〝心〟は、きっと生きていく上でいつも自分自身に寄り添い続ける力になるのだということを私は信じたい。
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