「観る者ごとに空想させ、感じさせる造りの映画」旅人の必需品 Toruさんの映画レビュー(感想・評価)
観る者ごとに空想させ、感じさせる造りの映画
韓国ソウルに旅しているフランス人女性イリス。彼女は一風変わった教え方でフランス語の個人レッスンをしており、まずは教え子の若い女性とのやりとりからスタート。
次いで初めてレッスンをする夫婦のもとを訪ねる場面へと展開し、その後同居させてもらっている年下の韓国人男性住のアパートに戻る。そこで男性の母親が突然訪ねてくるいう流れで展開。
登場人物との会話の端々、心の機微から、それぞれの人生や生活が一体どのようなものであるのかを観る側に想像させるような造り。
教えている相手はいずれも裕福、韓国人男性は中流といった印象を抱かせ、韓国社会におけるヒエラルキーも作品の中に散りばめられている。
公園で下手なリコーダーをおかしな旋律で吹くイリスと出会い、同居を決意したという男性は詩人。イリスは詩に対する興味が深い。
イリスの下手なリコーダーに対して、それぞれの登場人物が楽器を一定以上の技量で奏でる場面があったり、イリスはマッコリが大好きで、昼間からマッコリを飲むシーンが頻繁に出てきたりという演出など、特徴的なシーンを混ぜ込んでいる。
そんな所からも全編にわたって不思議な空気感を感じ、観る者によって見方、捉え方が異なるよう造られている。
イリスは自由で謎めいた存在。ストーリーらしきものはなく、それぞれの関係を淡々と描いた映画。ホン・サンス監督作品は初めてみるがその独特な造りに驚く。
日常に潜む不思議な心の揺れのようなものを、観る者ごとそれぞれの視点で想像させ感じさせられる。監督に遊ばれている感じさえするインディペンデント映画作品。
鑑賞後、ホン・サンス監督映画の世界観の一端を観たという印象が残った。
一昨日観た「旅の日々」そしてこの「旅人の必需品」ともに、起伏の緩い、ゆったりとした流れの作品。歳を重ねた今だからこそ、ほっこりしながら、観ることが出来た気がする。
