「ひとりの俳優が違和感なく双子に変身。その見事な手腕には、驚きを隠せません。同時に、「ひとりをふたりに見せる」技法が、少年少女の三角関係という物語と見事に呼応する様に惚れ惚れしました。」ふたごのユーとミー 忘れられない夏 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
ひとりの俳優が違和感なく双子に変身。その見事な手腕には、驚きを隠せません。同時に、「ひとりをふたりに見せる」技法が、少年少女の三角関係という物語と見事に呼応する様に惚れ惚れしました。
ドラマやミュージックビデオの監督として活躍してきた、タイの双子姉妹監督ワンウェーウ&ウェーウワン・ホンウィワットが、初恋に揺れる思春期の双子姉妹を描いた青春ラブストーリー。新人俳優ティティヤー・ジラポーンシンが主人公ユーとミーを1人2役で演じています。
●ストーリー
1999年。世界中でY2K問題が危険視されており、またノストラダムスの大予言も話題になっていた頃。中学3年生の一卵性双生児の姉妹、ユーとミーが父母と共にバンコクで暮らしていました。ミーの左頬に小さいほくろがあること以外は外見が合わせ鏡のようにそっくりで、それを利用して、彼女らは食べ放題の焼き肉店で途中で入れ替わったり、映画館に入り込んだり、食べ物を半分に分けたりと、1人分を共有して仲良く生活していたのです。
その年の夏、家庭の事情で田舎の祖母の家に身を寄せることになった2人は、マークという魅力的な少年に出会います。これまでどんなことでもシェアして隠し事もせずに同じ人生を歩んできたユーとミー。でも、シェアすることのできない“初恋”という感情に翻弄され、思いがけない人生の岐路に立たされることになります。
●解説
監督のホンウィワット姉妹は、一卵性双生児である自らの体験と同じ立場の人々の話を基に、双子の姉妹の物語を綴ったのが本作です。同じ男の子に恋をし、両親の離婚問題に翻弄されるうち、ユーとミーの間には徐々に差異が生じ、大人への階段を上っていきます。
ユーとミーを演じたのは新人ティティヤー・ジラポーンシン。画面の切り返しや鏡の利用など、撮影や編集の過程で施された様々な工夫によって、ひとりの俳優が違和感なく双子に変身するのです。いやはやこのレビューを書くためにWikiを覗くまで、てっきり本物の双子女優が演じているものと思い込んでいました。その見事な手腕には、驚きを隠せません。同時に、「ひとりをふたりに見せる」技法が、少年少女の三角関係という物語と見事に呼応する様に惚れ惚れしました。
同じ顔をした少女をどうひとつの画面に収めるか。どのように向かい合わせ、横に並ばせるのか。緻密(ちみつ)な構図が、すべてを共有し生きてきた姉妹の距離感を表現するのです。さらにここに少年の存在が加わることで緊張感は増します。二者が三者になればバランスが崩れるのは当然のこと。果たして彼はどちらの少女と見つめ合うのでしょうか。画面の中から退場させられるのは誰なのでしょうか。
●感想
双子あるある展開も面白いところですが、普段見慣れないタイ映画だけに、タイの風景や文化が興味深く映りました。
ひとりの少年との初恋を巡る双子の姉妹の淡い「三角関係」(けれども少年が恋したのは双子のどちらか一人でした。)そんな思春期の恋物語特有の甘酸っぱい気持ちにひたるのもいいと思えました。