「一人二役の演じ分けが演技初挑戦とは思えず、ありきたりの展開も演出のうまさによって新鮮さを帯びている」ふたごのユーとミー 忘れられない夏 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
一人二役の演じ分けが演技初挑戦とは思えず、ありきたりの展開も演出のうまさによって新鮮さを帯びている
2024.7.1 字幕 MOVIX京都
2023年のタイ映画(122分、G)
一卵性双生児の姉妹の恋愛を描いた青春映画
監督はワンウエーウ・ホンウィワット&ウエーウワン・ホンウィワット
原題は『เธอกับฉันกับฉัน』、英題は『You & Me & Me』で、ともに「あなたと私と私」という意味
物語の舞台は、タイのバンコク
そこで中学に通っているユー(ティティヤー・ジラボーンシン)とミー(ティティヤー・ジラボーンシン)は、一卵性双生児として育ち、顔にほくろがある以外は見分けがつかないほどだった
それを悪用して、映画館に半分の料金で入ったり、食べ放題の店で大量に注文しては平らげて店員を驚かせていた
ある日、数学が苦手なユーの代わりにミーが追試をつけることになった
だが、ミーは鉛筆を忘れてしまい、同じく追試に参加したファランことマーク(アンソニー・ブレサレート)は鉛筆を真っ二つに割って分けてくれた
ミーはそのお返しとばかりに解答を見せ、マークにカンニングをさせていく
その後、鉛筆を弁償しようと彼のクラスを訪れたものの、両親の都合で退学したと聞かされた
ユーとミーには父イーク(Natee Ngamnaewprom)と母ニム(Supakson Chaimongkol)がいたが、夫婦仲は冷め切っていて、離婚の話も出てくる始末だった
母は父の借金体質が我慢できず、うまく行っていな事業に固執する夫に愛想を尽かしていた
夏休みになって別居状態になり、ユーとミーは母と一緒に、祖母(Kurma Luktumthong)の住む田舎に行くことになった
ユーはそこで昔の写真を見ながら、再び楽器のピンを習いたいと言い出し、ミーは祖母のギフト包装店を手伝うことになったのである
物語は、そのピン教室にて、ユーとマークが出会うところから動き出す
マークはミーと勘違いしていたが、ユーはそれを言い出せずに話を合わせることになった
ユーはマークから個人レッスンを受けるようになり、二人はお互いを意識し始めていく
そして、二人は付き合うようになるのだが、ミーを一人にはしておけないユーは、三人で遊びたいと言い出してしまう
だが、マークは二人きりで過ごしていたいと考えていて、今度はミーの方がマークを意識し始めるのである
映画は、双子が分け合えないものに遭遇する様子を描き、大きな嘘を隠すために積み重ねた小さな嘘が、その関係を変化させてしまう様子を描いていく
一人二役でほくろと髪型ぐらいしか違いはないのだが、映画が進むにつれて「姉のはずのユーは子どもっぽくて甘えたがり」「実は妹のミーはしっかりもので実直」という性格がわかってくる
その頃になると、普通に見分けがつくようになっていて、マーク自身も違和感を感じてしまう
そして、追試にて二人が入れ替わっていたことを知ったことで、マークは混乱し「どっちが好きなのかわからなくなる」のである
マークがミーに恋し、ユーがマークに恋し、マークはユーをミーだと思っていた、という三角関係になっていて、それがひとつずつ判明していく流れが秀逸だった
どこで、どのようなセリフでバラしていくのかというのがこの物語の肝になるのだが、それがミーのユーに対する嫉妬心というところがとてもリアルだったように思う
監督も双子ということで、双子が感じる日常的なものがとてもリアルに演出されている
実際に同じ男の子を取り合ったかどうかはわからないが、その過程はとても緻密で、恋愛映画としても素晴らしいと感じた
いずれにせよ、展開や着地点が見えているものの、それをどのように組み合わせて、どのようなタイミングでバラすのかはとても重要であると思う
シークエンスが進むごとに三人の心情の変化が表れ、その距離感が変わっていくのだが、嘘をつくきっかけとそれを誤魔化す流れなどもとても自然なものだったので、評価は高いと思う
さらに二人を演じたティティヤー・ジラボーンシンは演技初挑戦という逸材で、二人のシーンでボディダブル(Nutwasa Srinudech)を使用しているものの、この演じ分けは相当な能力だと思う
映画の最後には本当に別人のように思えるので、今後、この女優さんには注目しても良いのではないだろうか