「【“悪貨は良貨を駆逐する。そして軍事独裁政権は継続された。”今作は全斗煥が起こした12/12軍事反乱を苛烈に描く、韓国映画陣の自国の負の歴史をエンタメ作品として製作する気概に感銘を受けた作品である。】」ソウルの春 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【“悪貨は良貨を駆逐する。そして軍事独裁政権は継続された。”今作は全斗煥が起こした12/12軍事反乱を苛烈に描く、韓国映画陣の自国の負の歴史をエンタメ作品として製作する気概に感銘を受けた作品である。】
ー ご存じの通り、歴代の韓国大統領の多くが悲惨な末路を辿っている。全斗煥が起こした12/12軍事反乱のきっかけにもなった、朴正煕大統領が側近のKCIA部長に拳銃で撃たれ死亡した事件(この事件の経緯は「KCIA 南山の部長たち」で詳細に描かれている。)を始め、今作で権力欲に取りつかれた方の主役のモデルとして描かれる全斗煥は今作のクーデターや光州事件(この事件は「タクシー運転手 約束は時を越えて」で詳細に描かれている。)の責任を追及され逮捕、無期懲役刑を受けているし(但し、後年特釈。)、全斗煥の右腕だった盧泰愚も同様に有罪判決を受けている。
更に、廬武鉉は収賄疑惑により飛び降り自殺をしているし、李明博も賄賂授受の嫌疑で逮捕、朴正煕大統領の娘である朴槿恵も収賄、職権乱用などで重刑を言い渡されている。
では、何故に韓国大統領はこのように悲惨な末路を迎える人が多いかと言うと、一言で言えば大統領になると巨大権力を手に出来る政治システムが背景にあるのである。-
◆感想
<Caution! 一部、敢えて役名を実名に変換して記載しています。又、やや内容に触れています。>
・今作の魅力は数々あれど、朴正煕暗殺事件の捜査本部長に就任した全斗煥保安司令官(今作では、チョン・ドゥグァン:以下敢えて全斗煥と記載する。)を演じたファン・ジョンミンの権力欲に憑りつかれた男の、豪胆さや強かさ、そして人間臭さを見事に演じた姿である。
彼が、年上の役職者たちを”先輩”と呼びながら、腹の中では馬鹿にしつつ陸軍内の秘密組織”ハナ会”の中で頭角を現していく姿や、時に見せる人間臭さの演技は見事である。
・一方、高潔な軍人として描かれるイ・テシン首都軍事司令官を演じたチョン・ウソンも見事である。
全斗煥が着々と多数の軍を手中にしていく中で、正に孤軍奮闘する姿にはドンドン観ていて肩入れしていくのである。彼が追い詰められた時に僅かな自分の軍勢に対し鼓舞する言葉や、全斗煥に対し、”軍人としても、人間としても貴様は失格だ!”と言い放つ言葉も胸に沁みるのである。
そして、彼の妻が彼を気遣う姿が、ラストの彼の悲劇を暗示させる演出も巧いのである。
- この映画は、韓国映画界の名優ファン・ジョンミンと、チョン・ウソンの二人に余りに対照的な人物を演じさせたキャスティングの妙も、魅力なのである。-
・朴正煕の後釜になった崔圭夏も、統率が取れずに度重なる全斗煥の陸軍参謀総長(イ・ソンミン:「KCIA 南山の部長たち」では、朴正煕大統領を演じている。この人も名優である。)を朴正煕大統領暗殺の責任を取らせる署名をするように要求する姿に、屈服するのである。
但し、最後の抵抗として署名の後に事後承諾の意味を込めて、署名日時を入れる所もミソで、この日時のサインが後年全斗煥と盧泰愚をクーデターの罪で有罪にするのである。
・更に、状況を見て右顧左眄する国防部長官の姿や、全斗煥の口車に乗って12/12軍事反乱に加担する軍部の幹部たちの姿が観ていると非常に腹が立つが、この映画ではラスト、彼らを断罪するかのように彼らの”集合写真”を大スクリーンに映し出し、一人一人の当時の役職と名前を映すのである。
■この映画は12/12軍事反乱を忠実に描いているので、観る側の希望通りには終わらない。
だが、それが逆に全斗煥及び彼に加担した者たちを大悪党に見せる効果にもなっているのである。
<今作は、朴正煕暗殺の後に民主化が進むと思われていた時期に、裏で起きていた12/12軍事反乱の際の、二人の軍人の攻防を緊張感溢れる数々のシーン満載で怒りを持って描いたポリティカル映画なのである。
又、韓国の負の歴史をキチンとエンタメ映画に昇華させる、韓国映画製作陣の気概を改めて感じさせる作品でもあるのである。>
結果を知っていても、ハラハラドキドキの映画でした。
全斗煥の腹の据わり方、は驚くほどでした。
実際の彼はもっと、ガッチリしたイメージでしたが、盧泰愚は似ていた気がしました。
全斗煥は死刑判決を受けましたが、結局、恩赦で90歳まで生きたそうですね。
お疲れ様です。
観終わって、韓国国民てこんな人たちに治められていたなんて哀れ、と過りましたが、
ひょっとしたらどこの国のトップも、そんなに大差ないのかもな、とも思いました。
こんにちは。
流石NOBUさんのレビュー!
読み応えがあり大変勉強になりました。実名変換わかりやすくて助かりました。
韓国の国民性なのか?自国の闇歴史にも鋭く切り込みコンスタントに映画作成する姿勢は尊敬に値しますよね。エンタメ作品としても大変見応えがありました。