劇場公開日 2024年8月16日

「往年のスタントアクションへのリスペクトが溢れる」フォールガイ ドミトリー・グーロフさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5往年のスタントアクションへのリスペクトが溢れる

2024年8月17日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

全編とおしてスタントマンへのオマージュ溢れるアクション・ラブコメだ。

まず、「アクション」の部分に注目すると、スタントマン出身の監督だけあって、高所落下に始まり、横転・ジャンプ・爆発炎上がコンボされたカーアクション、火だるま+爆風吹っ飛び、1対1または1対複数でのファイト…と盛りだくさん。CGや画像生成AIの加工処理をなるべく控え、生身のスタントアクション一本にこだわった監督の心意気が伝わってくる。

本作同様、スタントマン出身の監督が手がけた近作というと、『ジョン・ウィック』『タイラー・レイク』の両シリーズが真っ先に思い浮かぶ。これらのシリーズでは、時に「痛み」すら感じさせるほどリアルな肉弾戦やエッジのたったガン・アクションが大きな見どころだった。

一方、同じ“体当たり”アクションでも、本作の場合はちょっと違う。70/80年代にハリウッドやゴールデン・ハーベストが量産したアクションもので見られた大仕掛けなカースタントだとか、80年代のテレビドラマ『マイアミバイス』に出てきたようなボートチェイス、あるいは2000年代に入って『キル・ビル』二部作が見せた殺陣だとか、そんな往年の「スタントアクションの軌跡」に対するリスペクトがじんわり感じられるのだ。

ただし…。
ストーリー展開が緩くて、アクションシーンを呼び込むための「口実」にしか思えないこともたびたびある。そのせいか、次々と繰りだされるアクションの難易度が高ければ高いほど、迫真のスタントに“過剰に”意識が向かう。頭の片隅で「この高度なアクションシーンは、凄腕スタントマン役のライアン・ゴズリング当人が演じてるのか、それともスタントダブルが代演してるのか?」と戸惑ってしまう(ややこしくてスミマセン)。
ストーリー上、大前提たる「全部ライゴズ本人がやってます」の幻想が揺らいで、「危険なスタントを見事にキメてるな、誰かわからんけど」と、まるで「筋肉番付」を眺めているかのようなキモチに何度も囚われてしまうのだ(ちなみに、エンドロールで映し出される画像から、実際4人の「ライアン・ゴズリング」がいたことがわかる)。

次に、本作の「ラブコメ」部分に着目すると、『砂漠でサーモン・フィッシング』でさえ優しいキモチで受け入れたほど(?)エミリー・ブラントが大好きなこともあり、本作も期待していた……のだが、先に言及したとおりストーリーがゆるゆるで上手く転がっていかない。彼女とゴズリングのやりとりがまどろっこしい。またブラントが、少し鼻にかかったようなカワイイ子っぽい喋り方するのもちょっと気に障った(笑)

しかしカラオケ・シーンで、映画『カリブの熱い夜』の主題歌を『アニー・ホール』のダイアン・キートンばりにヘタウマ熱唱するブラントは、じつにいい。ついでにフィル・コリンズの曲もじつにいい(念のため補足すると、じつはエミリー・ブラントの歌唱力は相当高い)。

それにしてもこの冗長なストーリーだが、女性プロデューサーが主人公に奇妙な依頼をしてきたあたりでハタと気づいた。これは、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『インヒアレント・ヴァイス』の出来の悪いバージョンなんだと考えればナットクいくのでは、と。主人公はマリファナ漬けじゃないけど。

それから、ラストのスタントアクションについて。
慌てふためきながら巨大エアバッグと共に右往左往する描写をもっと挟み込んで、上手く観客を煽ってくれた方がよかったのではないか。桂枝雀さんが上方落語「鷺とり」のサゲで、五重塔の下を坊さん4人が大ぶとんの四隅を握ってあたふたする様子を活写したように。ここはやはり、大一番のスタントなのだから、予告編の“繋ぎ”など軽く超えてきてほしいポイントなのだ。

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ドミトリー・グーロフ