劇場公開日 2024年8月17日

「時代劇の斬られ役を主役にした奇抜なバックステージものの、愛おしさ」侍タイムスリッパー Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5時代劇の斬られ役を主役にした奇抜なバックステージものの、愛おしさ

2024年10月30日
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鑑賞方法:映画館

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幕末から140年後の2007年の東映太秦にタイムスリップした会津藩士が、得意の剣術を生かし斬られ役として活路を見出すストーリーを丁寧に自主製作した時代劇コメディ。少ない制作費の中で脚本も手掛けた安田淳一監督が撮影まで担当したことに、先ず驚きを隠せない。あのチャップリンでさえ撮影は専門のカメラマンに任せているし、他に想い出しても「男と女」のクロード・ルルーシュしか知らない。それだけ限られたスタッフで作り上げたことが想像できるのだが、上映時間131分の長尺を緩みなくまとめあげた編集も丁寧で、この安田監督の八面六臂の活躍ぶりに敬意を表したい。何より時代劇の斬られ役にスポットを当てた斬新さと、戊辰戦争の歴史的背景を持つ主人公の内面描写の深さ(会津戦争の前に現代へ)、そして主人公だけではないタイムスリッパーを物語の展開に生かした工夫の巧さと面白さ、これらが一つになった脚本が素晴らしい。

主人公高坂新左エ門役の山口馬木也始め主要キャストは殆ど50歳を超えたオジサンばかり。有名ではなくても、これ迄映画やテレビで培ってきた経験と実力を持っている。それが地味に終わらず、みんなが生き生きと演じていて新鮮に感じます。殺陣師関本役の峰蘭太郎氏の凛として厳しくも、温かみのある眼差しが主人公に注がれている。それは日本映画全盛期を支えた時代劇の継承者の次の世代へのエールでもあるでしょう。風見恭一郎役の冨家ノリマサの安定感と包容力が、山口馬木也の泥臭く純朴な新左エ門と対立するキャラクター。これが後半の見せ所になっています。時代劇スター錦京太郎役の田村ツトムと斬られ役俳優の安藤彰則も役柄にあって個性を発露。

制作費2600万の自主製作映画でも大手の配給会社を通して拡大公開されスマッシュヒットする現代の珍事。時代から取り残されつつある時代劇への愛に溢れた安田脚本が、素敵な作品になりました。この映画は、面白い脚本と真摯な監督・スタッフ、そして経験と技量を持ち合わせた役者が揃えば良いものが出来ることを、見事に証明しました。

Gustav
Gustavさんのコメント
2024年10月30日

みかずきさん、時代劇ファンとしてのアドバイスコメントありがとうございます。“斬られ役”に修正させて頂きますね。

映画を観て、もっとヒットして欲しいと思ったのは久し振りです。映画愛が伝わる作品には、どうしても応援したくなります。また日本映画界に、いい意味で刺激を与えていくと思われます。質的にも高い喜劇映画がもっと作られますように。
それと楽屋シーンに伊丹十三作品のビデオテープが幾つか意図的に並べられていました。時代を出す演出の小道具のようですが、安田監督は伊丹ファンなのか、そうであれば更に嬉しいし、これからも期待したいと思いました。

Gustav
みかずきさんのコメント
2024年10月30日

共感ありがとうございます

時代劇ファンとしての細かな拘りですが、
切られ役 ⇒ 斬られ役 の方が時代劇らしい漢字使用だと思います。

さて、本作、インディーズ作品とは思えないクオリティーの高さに驚きました。仰る様に時代劇愛溢れる監督、スタッフ、秀逸な脚本、主役を筆頭にした演者の演技力、迫力ある殺陣、がしっかりしていれば低予算でも面白い作品はできるという見本のような作品でした。

大手映画会社が本作の脚本を読んで、京都撮影所を格安で貸してくれたという話も納得できる作品でした。
今週見た八犬伝も初週の興行収入№1となるのも納得の面白い作品でした。時代劇ファンとしては嬉しいです。

では、また共感作で

ー以上ー

みかずき