「『ラストマイル』あなたのブツが、ここに」ラストマイル gladdesignさんの映画レビュー(感想・評価)
『ラストマイル』あなたのブツが、ここに
取り急ぎ全日本国民および日本で生活している者はもれなくこの映画を見るべし、と強く思った。
それは単に脊髄反射で言っているわけではない。
現代の日本で暮らしている我々は、須く「物流」と無縁ではいられない。
どんなにインターネットが発達しても、どんなにWi-Fiが張り巡らされても、人はモノを食べるし、モノを使って生活する。データだけでは生命を維持できないのだ。
買い物はネットでできても、モノは誰かが届けなければならない。
その「ラストワンマイル」を担うのが、物流だ。
だが、我々は利便性を求め続ける。買った商品はすぐに届けて欲しいと願う。その欲望を抑えることができていない。
その結果、皺寄せはビジネス経済圏の「弱者」に集中し、あり得ない「送料無料」が謳われる。
人がモノを運ぶ以上、無料ということはあり得ない。確実にコストは発生しているはずだ。
日本の物流業回の市場規模は、年間およそ28兆円。これは日本全体のGDP(国内総生産)の約5%を占めるといわれている。
企業が製品を生産してから消費者へ届けるまで、発生する物流こすとは売上高の約5%。
このコストをいかに下げていくか、企業の競争力にも影響する数字であり、その重要度はますます強くなっている。
日本での輸送はトラック輸送が圧倒的に多く、貨物輸送量全体のやく90%を占めており、従事者数は約160万人。
物流業界全体の従事者数が約200万人といわれているので、約80%がトラック輸送に従事しているということになる。
日々の仕事に追われ、何のために仕事をしているのか、分からなくなりながらも、生活のために仕事を続けるうちに、身体が壊れ、心が壊れていく。
日本の物流業界では人手不足が深刻化している。
ドライバーの高齢化、労働時間の長さが人手不足に拍車をかけている。
有効求人倍率は全産業平均が1倍台であるのに対し、トラックドライバーは2倍を超えることも珍しくない。
それだけ企業はドライバーを確保することが難しくなっていることを示している。
本作は、ワークライフバランス、やりがい搾取、働き方改革、さまざまな問題の最終表着地になりつつある「物流」の世界を、リアルタイム感をそのままパッケージングしたような高解像度で鮮やかに描き切った超エンタメ作品となっている。
「シェアード・ユニバース・ムービー」と銘打って、かつて放映された地上波ドラマ「アンナチュラル」「MIU404」と同じ世界線に位置するドラマとして構成されている。
とはいえ、単に客寄せのために無理やりくっつけた感は全くなく、むしろストーリー上、重要な転換点にもなっており、ここから一気にストーリーが加速していく必然性のある構成になっている。
あの描写が実はあそこにつながっていて、あれはああいう意味だったのかと気付かされ、最後の最後まで目が離せない。さすが野木亜紀子脚本と唸ったのであった。
物流業界を扱った作品は意外とたくさんある。
有名なのはやはり楡周平さんの『再生巨流』だろうか。
宅配に関してはこちら『ラストワンマイル』がある。
さらには福田和代さんの『東京ホロウアウト』。
いずれの作品も物流業界の暗部を曝け出すと同時に、我々日本人の便利さへの依存度を深く抉る内容だ。
地上波ドラマでも近年の宅配事業者にスポットを当てつつ、本作『ラストマイル』とも実は(意図的かどうかは不明だが)関係がある作品があった。
2022年8月にNHKで放映された「夜ドラ」枠の『あなたのブツが、ここに』である。
主人公・山崎亜子を仁村紗和が演じている。
映画を観た人ならわかるだろう、この意味が。
