「エンドロールまでひとつの物語」ラストマイル いこあんさんの映画レビュー(感想・評価)
エンドロールまでひとつの物語
アクション映画でもないのにスピード感がすさまじく、ぎっしり詰まった内容で満足度が高いんだけど、見終わった直後に犯人の感情描写が少なかったなという違和感のようなものがあった。
シリーズものの利点を活かして、MIU404やアンナチュナルのメンバーをメインに据えることで、説明が省略できる舞台装置にして犯人の心情や動機に重きをおけば観客も感情移入しやすいところ(イメージは容疑者Xの献身)、メインキャラも新キャラでそこを掘り下げないといけない。しかも他にも多くの人物が絡まり合って複雑になっているのが本作の肝なので、犯人だけを深掘りするには尺が圧倒的に足りない。
物語を構成する上で最低限必要な動機は過去の回想からで、リアルタイムでは犯人の口から語られることはなく、最後は登場人物が概ね、劇的に何かが良くなったわけじゃないけどそれでも明日を生きよう、という少し前向きな印象。ところがどっこいエンディングで米津玄師の「がらくた」が流れ出す。
この曲については映画を観る前からアルバムを買って曲も聴いていたけど、ラストマイルのエンディングで流れる場合にのみ、印象がガラッと変わる。ここでは犯人の遺書とも受け取れる。「例えばあなたがずっと壊れていても 二度と戻りはしなくても 構わないから僕のそばで生きてよ」「許せなかった何もかも全てを ずっとあなたを否定してきた その全てを」
この曲が流れるのであれば劇中の犯人の深掘りはたしかにあれくらいでいいとさえ思えた。
テレビドラマでは終盤の盛り上がる場面で主題歌が流れるところ、本作はエンディングでだけ流すのに意味があると思えた。
文字だけのエンドロールなのに、それも含めて一つの物語になる、素晴らしい体験だった。