「見事な脚本の手柄」ラストマイル アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
見事な脚本の手柄
大手の輸送会社の配達物に爆弾が仕掛けられて配達されて、配達後に爆発するという事件がおきて、宅配業者 Daily Fast の新任の集配センターの所長が、同僚や下請けの配達業者を巻き込んで、犯人探しと爆発物の発見に頭脳戦を展開する話である。非常に良く出来たストーリーで、最後の最後まで息詰まる緊張感の連続だった。かつて脚本担当の乃木亜紀子が手がけたテレビドラマ「MIU404」と「アンナチュラル」とコラボした作りになっていて、それらを見ていればより楽しめる内容になっていた。
既存のドラマとコラボさせるということは、それらのドラマの出演者は今作の本編に出演させられないということになり、両ドラマと被りのない役者だけで本編を作らなければならないという縛りを自らに課したも同然であるので、役者陣は相当豪華にならざるを得ない。結果的に、被ったドラマの比重としては「MIU404」の方が多く、「アンナチュラル」はかなり薄くて、顔見せ程度に過ぎなかった。
犯人の復讐先は宅配業者なのであるが、被害者は罪もない見知らぬ一般人であるというところが許しがたい話で、この犯人は同情の余地のない外道である。「目には目を」という同害報復の原点から言って、犯人は復讐先の誰かを一人だけターゲットにすべきであるのに、無関係な人を 10 人以上も害しようとした訳で、これでは貞子の呪いと同じで完全にやり過ぎである。
犯人の特定に至るプロセスが特に見応えがあり、疑いを向けられる人物の怪しげな行動とその理由などが巧妙に組み上げられて話を牽引していた。無駄な登場人物が一人もおらず、誰もが物語の中で重要な役割を演じていた。これだけの登場人物にそれぞれ役割を与えるというのも物凄い構成力で、この映画の魅力は脚本の優秀さに尽きると思われる。
特に、新任の集配センター長役の満島ひかりの演技の素晴らしさが光っていた。その部下を演じた岡田将生も有能さを十分に感じさせていた。阿部サダヲは下請けの宅配業者の中間管理職を好演していたが、やや役不足に感じられたのが勿体なかった。少ない出番ながら鮮やかな印象を残した竜星涼は見事だった。電器メーカーのエンジニアから転職した宅配ドライバー役の宇野翔平は伏線回収しながら見事な機転を見せるところが魅力的だった。
音楽も無駄がなく、必要なところで十分に雰囲気を盛り上げていたし、エンディングの米津の歌も良かった。爆破シーンが特に見事で、中でも爆破の中でもがく人物の描写を見せたのは、映画に生々しさを与えていた。道具立てを全て使い切って最後までドキドキさせる演出も見事だった。
(映像5+脚本5+役者5+音楽5+演出5)×4= 100 点。