「しんちゃん味が足りない!」映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
しんちゃん味が足りない!
人気アニメ「映画クレヨンしんちゃん」シリーズの31作目。「クレヨンしんちゃん」の劇場版は昨年初めて観たのですが、なかなかおもしろかったので本作も鑑賞予定に入れていました。ちなみに昨年の3DCG作品は番外編扱いらしいので、今回がシリーズ初の鑑賞となります。しかし、公開4日目の時点でレビュー評価はまさかの3.0! 一抹の不安を抱えながらの鑑賞スタートです。
ストーリーは、現代に恐竜をよみがえらせたテーマパーク「ディノズアイランド」で働くビリーによって連れ出され、途中で彼とはぐれてしまった赤ちゃん恐竜を、野原家の愛犬シロが見つけたことをきっかけに、しんのすけたちはその恐竜をナナと名付けて飼い、交流を深めるが、ナナの奪還を狙うパーク創設者バブルが追っ手を差し向けたことで、しんのすけたちは騒動に巻き込まれていくというもの。
冒頭、何かいわくありげなパーク、恐竜に隠された秘密、そのカギを握る赤ちゃん恐竜を登場させ、今後の展開を予感させながら舞台を整える立ち上がりは悪くないです。前半は、そこから赤ちゃん恐竜がシロと出会い、しんのすけたちと交流を深めていく日々が描かれます。「ジュラシック・パーク」や「ドラえもん」を想起させる、既視感だらけの展開ながら、楽しい日々が絵日記に綴られていく様子が微笑ましく、子どもの頃の夏休みを懐かしく思い出し、心がほんわかと温かくなります。そこに野原家とシロとの出会いも重ねる演出が、地味に沁みてきます。
そして後半、操作ミスから逃げ出した恐竜たちが街をパニックに陥れ、そこから恐竜の秘密も明らかになり、バブルの暴走が始まります。解き放たれた恐竜たちはどれも迫力があり、なかなか見応えがあります。しかし、興奮の鉄板展開のはずなのに、これがどうにも盛り上がりません。恐竜の秘密が予想の範囲内であることはよしとしても、それならなぜそんな行動をするのかという違和感が邪魔をしてイマイチ乗れないのです。しかも、尺稼ぎかと思われる不必要な演出がさらに没入観を損なわせます。
この後半のグダグダ感が本作の印象を著しく落としているように感じます。夏休みのお子様向けにギャグとアクションをふんだんに盛り込んだのでしょうが、ストーリー上の必然性が感じられず、しかもくどくて、ちょっと萎えます。できれば、この部分をもっと削って、バブル、ビリー、アンジェラたちを掘り下げ、その心情にもう少し共感できるように描き、親子や家族の絆を強く感じさせる展開にしてほしかったです。もちろん言わんとしていることはわかるのですが、それが映像から伝わってこないと心に響いてきません。ラストも、ナナを退場させるしかないことはわかりますが、その方法がちょっと安直だったように思います。しんのすけがナナのことを思って別れを決断し、観ている子どもたちがそこから何かを感じ、自身で考え、それを親子で語り合えるような展開だとよかったです。
ギャグやアクションはもちろん大切な要素だと思いますが、それはテーマをしっかり伝えるストーリーがあってこそ生きてくるもの。そして、その全てが備わっているのが「クレヨンしんちゃん」だと思っています。しかし、残念ながら本作はその期待に応えられていないように感じます。というわけで、みなさまの低評価の理由がよくわかる本作なのでした。
キャストは、小林由美子さん、ならはしみきさん、森川智之さん、真柴摩利さんらお馴染みのメンバーに加え、北村匠海くん、戸松遥さん、水樹奈々さん、安元洋貴さん、オズワルドさんらが脇を固めます。