劇場公開日 2025年12月12日

「性暴力サバイバーの心の叫び」Black Box Diaries Rosaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 性暴力サバイバーの心の叫び

2025年12月26日
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鑑賞方法:映画館

今の日本では、密室で性暴力を受けると被害の立証はとても難しく、増してこの事件のように被害者が若い女性、加害者は社会的地位が高く、日本の政界有力者と非常に近い立場にいたりすると、簡単にもみ消されてしまうというのが、映画の背景。この事件は、伊藤詩織さんのその後の奮闘や、映画「新聞記者」をはじめとする一部メディアの取り上げにより、私自身も起きたことの経緯はよく知っていました。なので、映画の筋を追う必要はなく、作り手である詩織さんの心の動きに自然に共感しながら観ることができました。
映画の素材となった映像や音声について、関係者との間でトラブルが起きていることや、この映画が海外の多くの映画祭などでとても高い評価を得ていることなどの周辺状況も報道を通じて知った上で鑑賞しました。観る前は、両者の言い分や有識者のコメントなどを読んで、やや複雑な気持ちになっていました。双方の言い分がどちらも確かにそうだなと思えるものだったので。
しかし、映画を観た後、私はこの映画が、本来守られるべき性暴力被害者が守られず、自分で立ち上がるしかない社会や、顔を出して実名で告発することへの強い風当たりと世間の好奇の眼、それらと葛藤しながら闘う彼女の強さ、弱さ、不安、苦悩、落胆、戸惑い…そういった全ての感情が非常に上手くスクリーン上に表現されていて、社会的弱者である性暴力サバイバーの立場に共感するしかない、この映画の力強さ、素晴らしさに圧倒されました。
この作品はドキュメンタリー映画として、非常に良く出来ているのです。事実を真っ直ぐ、冷静に説明しつつ、そこに登場する多くの人たちの意見、感情、戸惑い、迷い…そういったものが驚くほどストレートに視聴者の心に届いてくるのです。こんなドキュメンタリーは珍しいと感じました。
考えてみると、社会の不正や事件の背景をドキュメンタリーで描く時、すべての人の合意を得て映像化するのはかなり難しいのではないでしょうか。もちろん、そのことによって二次被害を受ける人や苦境に立たされる人を出すべきではないし、そのことは伊藤詩織さんご自身もかなり意識していることが、映画の中で彼女自身の苦悩や迷いとして表現されていました。こういう苦悩を、被害者本人が一人で背負わなければいけない社会の側に問題があるのじゃないのか?本当は、彼女のような被害者を出さないように、社会の側や被害者以外の人々(私を含めて)が、こうした事件を告発し、報道し、加害者が不起訴になるという社会不正と闘わなけりゃいけなかったんじゃないのか?

つまりこの映画は、「誰の立場でこの事件について考えますか?」ということによって事の是非の判断が分かれる映画だと感じました。そして、映画の視聴者は「詩織さんの立場に立って出来事を見ること」を迫られる映画だと、そしてその意味でこの映画は成功していると、私は感じました。

Rosa
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