「あなたの目で見て、心で受け止めてほしい「小さな超大作」」Black Box Diaries Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
あなたの目で見て、心で受け止めてほしい「小さな超大作」
米アカデミー賞(2025年)に日本人初ノミネートされた話題のドキュメンタリー作品であるにもかかわらず、たった1館の上映館(T・ジョイPRINCE品川)でスタートする"小さな超大作"。
そんな小品にもかかわらず、初日舞台あいさつには大勢のマスコミが殺到。この矛盾した状況そのものが日本社会の「忖度の象徴」だ。すべての映画館が「危うきに近づかず」。こういった作品群で問題提起し続けるスターサンズの姿勢と、上映に踏み切ったT・ジョイの英断に敬意を表する。
その出来栄えは、百聞は一見にしかず。言葉では代えることのできない苦しみの数々を目の当たりにし、作品の圧倒的なパワーに押し切られる。
当事者本人が監督を務めるのは、SNS動画があふれる時代を背景に近年のドキュメンタリー作品の主流になりつつあるタイプで、伊藤詩織が自ら受けた性暴力について、ジャーナリストとして自ら調査・取材する姿をそのまま記録している。
映像や音声の使用許諾については、立場によって異なる見解なので、そういう意味では未解決である。ただし今回の「日本公開版」は、裁判用に提供された素材を無断使用した初期オリジナル版とは異なり、タクシー運転手の許諾を得るとともに、ホテルの証拠映像を元にしたリアルな再現映像を作るという手法で修正されている。
現時点で理解の一助となるのは、作品公開日に出された「伊藤詩織ホームページ」の4つのステートメントを参照してほしい。とはいっても、映画作品を観てからのほうがいい。作品を見ずにステートメントだけで先行判断するのは、当事者の状況を知らずに誹謗中傷だけするダークサイドにおちいる可能性を排除できない。
事件の2年半後(2017年)に発売された伊藤詩織氏の著書「Black Box」(文藝春秋)を既読の方もいるだろうが、本作の原作ではない。なにより”裁判前”と”裁判後”という時間経過があることと、前者は”ジャーナリスト”伊藤詩織が取材したもので、映画は"ドキュメンタリー監督"伊藤詩織が当事者事件として編集している。
「映像報道」(ジャーナリズム)が客観報道の原則を守り、特定の意見や思想に偏らない中立性を保つことが強く求められるのに対して、「ドキュメンタリー」は同じ現実の出来事や人物を題材としながら、制作者の主観や世界観を表出する社会メッセージである。本作はドキュメンタリー映画であり、しかも世界中の映画祭で評価された完成度である。
事件は2015年、日本公開は2025年。10年という時間が、20代だった当事者にとってどれほど大きな時間かは言わずもがな。当事者の涙の訴えをあなたの目で見て、心で受け止めてほしい。そして忖度ではなく、自らの意思で上映を決断する映画館が増えてほしい。
(2025/12/12/T・ジョイPRINCE品川/Screen3/H-15/ビスタ、1部スマホ画角)
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