「ふれられない“ふれる”の思い」ふれる。 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
ふれられない“ふれる”の思い
監督・長井龍雪さん、脚本・岡田麿里さん、キャラデザ・田中将賀さんの再結集ということで関心をもっていた本作。予告もおもしろそうでしたので、さっそく公開初日に鑑賞してきました。
ストーリーは、島育ちの小野田秋、祖父江諒、井ノ原優太の三人は、秋が不思議な生き物“ふれる”を見つけ、互いの身体に触れるだけで心の声が聞こえるようになったことをきっかけに親友となり、その関係は高校卒業後も続き、東京に出て共同生活をしながらそれぞれの道を歩んでいたが、そこに訳ありの二人の女性が転がり込んできたことから、三人の関係がぎくしゃくしだすというもの。
“ふれる”の力により、言葉を交わすことなくわかり合っていた三人が、何かをきっかけに気持ちがすれ違い始めるというのは、すでに予告でわかっていました。それがひょんなことで出会った女性への恋愛感情に端を発しているのも、十分に納得できるものです。また、そうして関係がいったん崩れたのを機に、互いにより深く理解し合うことで、三人が今まで以上に固い絆で結ばれていくというのは、ある意味テンプレ的展開ではあるものの、心地よく感じます。
そんな三人の姿を通して、心の底からわかり合える友がいることのすばらしさを感じます。普通に考えて、裸の心をさらけ出して付き合うなんて、純度100%の信用がなければできません。きっと秋たちは、自他の区別のないゼロ距離での友情を育んでいたのでしょう。でも、それが“ふれる”のフィルター能力によってもたらされたものであると知り、絶対だと信じていた友情がもろく崩れていく様子が切ないです。
“ふれる”の力に頼り、自分の思いを伝えるために言葉を選んで紡ぐことも、相手の立場や気持ちをあれこれと察することも、三人はいつのまにか怠ってしまっていたのかもしれません。それは、三人の内に限ったことではなく、社会とのつながりにおいても同様だったように思います。だからこそ秋は、初めて自分の“言葉”で繋がることのできた樹里に心惹かれたのではないでしょうか。それなのに、秋と諒はそれぞれの思いを“言葉”で伝えなかったために誤解や軋轢を生むことになったのは、なんとも皮肉なものです。ここに本作の大きなテーマがあるように思います。
そしてもう一つのテーマは、“ふれる”自身にあるように思います。その体を覆うトゲは、自身がつなげた人の心から抜き去った負の感情でしょう。おかげで誰からも触れてもらえず、その寂しさに気づいてももらえません。だから、そのトゲの奥にある思いに手を差し伸べた秋の行動が、“ふれる”は何より嬉しかったのでしょう。“ふれる”の涙は秋への感謝、トゲのない姿は心を開いた証なのではないでしょうか。“ふれる”とは、周囲に理解してほしいのになかなか素直に思いを語れず、本音を隠す苦しさや悲しさに気づいて優しくしてほしいと願う、人の心そのもののような気がします。
ただ、テーマも設定もおもしろいのに、三人の心情にやや共感しにくいためか、関係が壊れて修復していく過程がなんとなくしっくりきません。中でも、優太の言動が唐突で、シナリオに沿って動かされているような感じを受けるのが残念です。これまで通じ合えていた秋と諒に対して、手のひらを返すように乱暴な言葉を浴びせる姿にちょっと違和感を覚えます。その後の関係修復時も同じで、このあたりがもっと共感的に描かれるとさらに心に沁みてきたと思います。とはいえ、この三人の友情がこの先もずっと続くであろうと思わせてくれ、鑑賞後の後味は悪くないです。
主要キャストは、永瀬廉さん、坂東龍汰さん、前田拳太郎さんで、中でも永瀬さんはプロ声優に遜色のない演技を披露しています。脇を固めるのは、白石晴香さん、石見舞菜香さん、皆川猿時さん、津田健次郎さんら。