劇場公開日 2024年7月26日

「コメディタッチの本気」もしも徳川家康が総理大臣になったら R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 コメディタッチの本気

2025年10月27日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

2024年の作品。原作は同名のビジネス小説のようだ。だがこの映画に込められているのは、単なる娯楽ではない。現代日本の行き詰まり、そして人々の「どうにもならなさ」への問いかけだ。

偉人たちがAIによって復活し、内閣を組む。設定は荒唐無稽だが、そこに込められた「もしも」の力は強い。記者・西村理沙の視点を通して、国民の意識が少しずつ変化していく。彼女がアナウンス部から政治部へと希望を変える、その些細な変化こそが、この物語の本質ではないだろうか?。

「ワシが徳川家康じゃ」と言われれば、「はいそうですか」としか返せない。竜馬以外に写真はないから。つまり、AIが描く偉人像は、現代人の願望でしかない。プログラミングされた思考は、忠実な再現ではなく、現代の都合による再構築だ。それでも、物語は進む。スター・ウォーズのようなオープニングクロールで、すべては「そういうことになった」として始まる。

偉人たちは、和製ワクチンを作り、農業政策を立て直し、経団連から資金を引き出し、教育と外交を再構築する。それらは、現代日本が本当に必要としていることばかりだ。だが、10ヶ月後に成功を収めた日本を前にして、家康は浮かない顔をしている。「本当にそれだけでいいのか?」と。

この問いが、物語の核心だ。変えていく力を持っているのは、偉人ではなく、国民自身なのだ。家康が最後に「国民を信じる」と言ったのは、作家の真意だろう。

そして、もうひとつのテーマが「野望」だ。指揮官・御子柴の野望は、偉人たちの信念と対立する。聖書では、ルシファーが野望によって堕天する。日本では、総理大臣が最高ポストだが、その周囲には「野望」を捨てきれない者たちがいる。「トップにならなければ意味がない」という思考は、問題解決を歪める。それは、現代の政治家にも通じる構造だ。

西村記者は、ほんの少しだけ変わった。だが、その「ほんの少し」が、社会を変える可能性を持っている。何度も「本心」を問う場面があった。うわべの意見、体裁の意見、誰かの意見。それらが、民主主義を揺るがす元凶なのかもしれない。

バカバカしいと思える物語の中に、現代日本の問題点が詰まっている。それでも「信じる」と言ってくれた家康と偉人内閣に、私たちは胸を張って応えたい。これこそが、映画の持つ力なのだと思う。

R41
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