「監督のセンスの良さを感じました」12日の殺人 pekeさんの映画レビュー(感想・評価)
監督のセンスの良さを感じました
前作『悪なき殺人』は、強烈な印象を残す作品だった。
ほとんど内容を思い出せない映画も少なくない中で、それは忘れようとしても忘れられない1本となった。
そんな前作と同様に、本作も我々が持つ本質的ななまなましさ、つまり人間の大きな欲望の一つである愛欲がストーリーの根底にある。だから性描写が一切ないのにもかかわらず、この作品にはどこか淫靡な性のにおいが漂っている。
そして、描かれていない回想シーンが観客の頭に浮かぶように仕掛けているところ、「描かずに描く」といった手法が効いている。
セリフのディテールも練られていたし、それから巧いなと感じたのは、ヨアンの乗った自転車のシーンが何度か印象的に映し出されること。人工的なコースをぐるぐるとまわる描写――それはヨアンの心理を象徴しているのでしょう――から、最後はマルソーの言葉に従って、クネクネと曲がりながらも自然の中の公道を前進していくという場面に変わるのも暗示的。
あと、音楽もとてもよかった。サントラ欲しい♪
本作はいちおう “サスペンス・スリラー” という扱いになっているようだけど、単純な “犯人探し” のストーリーだと思って鑑賞すると、期待はずれということになりかねない。殺人事件の犯人探しという形をとりながら、ここで重点を置いて描かれているのは「人間そのもの」としての刑事たちの姿である(それから男と女の「溝」も大きなテーマになっているのかな?)。
というわけで、ドミニク・モルの新作『12日の殺人』。前作ほどのインパクトはなかったものの、監督の映画づくりのセンスの良さを感じた1本でした。
次の作品も楽しみです。
追記
好きな作品なので2回観たよ。
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