劇場公開日 2024年6月14日

「偉業を成し遂げた家族の物語」ディア・ファミリー 泣き虫オヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0偉業を成し遂げた家族の物語

2024年6月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

幸せ

大泉洋の作品にはあまりハズレが無いので、今作も迷い無く観賞。

【物語】
1970年代から話は始まる。名古屋の町工場の経営者筒井宣政(大泉洋)は幼い娘・佳美が先天性の心臓疾患を持ち、長くて余命10年と医者から宣告される。宣政と妻・陽子(菅野美穂)はがく然とするが、娘を救う方策を必死で探す。 全国、さらにはアメリカの著名な心臓医に助けを請うも見放されるが、アメリカでは人工心臓の研究が進められていることを知る。

人工心臓に希望を託して研究機関に足を運んで相談するも、アメリカでも実用にはほど遠く、まして日本では基礎研究の段階であることが分かる。 宣政は自分で人工心臓を開発するしかないと決断する。医療の知識が皆無の筒井は、人工心臓について独学しながら、有識者のもとへ日参した結果、ある医大の教授が宣政の熱意に負けて一緒に研究・開発に合意する。

最もお金がかかる試作品には宣政が私財をつぎ込んで製作・提供し、大学の想定していた以上の速度で開発を進んだ。しかし、技術的めどはたっても、それが医療器具として承認されるまでにさまざまな関門が残されおり、10年のタイムリミットは目前に迫ってしまう。

【感想】
予告編で想像したのは、「重篤な心臓の病を抱える娘の父親が、娘のために人工心臓開発に奮闘する」というかなりベタなフィクションだった。恐らく予告を観た多くの人がそうだったと思うが、冒頭の表彰式シーンでそれは違うと分かる。 いや、“人工心臓開発物語”はウソではないのだが、本作は大手医療メーカーが失敗した国産IABPバルーンカテーテルの開発を成功させた中小企業の経営者夫婦の物語なのだと。(冒頭のシーンは主人公が実在の人物なのだろうということも想像させるが、実名も役名筒井宣政のままの実在の人だということを観賞後確認)

冒頭のシーンから過去を振り返る構成で物語は展開され、最初から最後まで引き込まれた。実在の筒井宣政さんが凄い人物なので、それだけで興味深い作品にできたとは思うが、これだけ没入できたのは脚色・演出の出来が素晴らしいからこそだと思う。終盤は涙なしでは観られなかった。

まず、宣政の執念が凄い。「娘を何としても救いたい」というところまでは、親になった人なら誰でも思うだろう。しかし、俺なら早々に「悔しいけど、諦めよう」と妻を説得していたに違いない。最初にやった日本中、さらにはアメリカの病院にまで足を運んだという時点で、おそらく1/10の調査数で諦めたに違いない。客観的に言えば、全×だったのだから宣政は無駄な労力・時間・お金を使ったわけで、主要な数病院で話を聞いた結果で判断するのが効率的には正しいのだけど、その常識外れの諦めの悪さ、ポジティブ思考があとのカテーテル・バルーン開発成功につながっている。

作品タイトルがファミリーとなっているように凄いのは宣政だけではない。
妻陽子(菅野美穂)も宣政の背中を強く押す。行き詰ったときに口癖のように宣政に言う「それで、どうするの?」はちょっと怖いけど(笑)
俺だったら「どうしろって言うんだ!」と切れてしまいそう。 でも、言うだけでなく自らも動いていたようだし、莫大な私財投入も奥さんが反対したら出来なかったはずで、妻の後押しが有ったからこその偉業だったに違いない。
ちなみに菅野美穂もステキだった。今まで観た中で一番キレイに感じた。

子供達も凄いと思う。病を抱える佳美は次女で、この他に長女と三女の3人姉妹。例えば中高生にもなれば、佳美のために親が莫大な借金を抱えていることも知っていただろうし、生活も佳美中心だったことは想像に難しくない。家族旅行さえほとんど行けなかったことが劇中でも仄めかされる。 普通なら「佳美ばっかり」と不満も出よう。しかし、そんな不満を出さずに佳美を応援し、父親に理解を示す。 事実はきっと不満が皆無だったとは思えないが、娘たちの理解無くして、宣政の“無茶”は進められなかったはず。
また、佳美の前向きに生きる姿勢も宣政の大きな力になっていたに違いない。

“諦めの悪さ”はしばしば周囲にとっては迷惑になるが、迷惑を超えて偉業につなげた偉大なるファミリーなのだと思う。

町工場が成し遂げた偉業という点では“下町ロケット”を彷彿とさせるが、池井戸作品の特徴として業界の調べが甘くてリアリティーに難があるのに比べて、実話ベースだけにリアリティー溢れる本作の方が俺にはずっと感動できた。
俺のお気に入りランキング、2024年上期公開作品中TOP3に入る秀作。

全ての方に観賞をおススメできます。

泣き虫オヤジ