劇場公開日 2024年8月30日

「堀マモルの描く世界に優しく切なく浸る」マンガ家、堀マモル おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0堀マモルの描く世界に優しく切なく浸る

2024年8月31日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

幸せ

萌える

観ようかどうしようか迷ったのですが、お目当ての作品の上映前に時間が空いたので鑑賞してきました。公開初日の夕方だというのに観客はたったの二人。世間からあまり注目されてない作品ですが、なかなかおもしろく、迷ったけど観てよかったです。そう思って終了後にもう一人の観客に目をやると、じっと座ったまま余韻に浸っている…かと思いきや、超爆睡してました!笑

ストーリーは、新人賞受賞以来、描きたいものもなくスランプに陥っていたマンガ家・堀マモルが、編集者にダメ出しされてアパートに帰ると、どこかから現れた男子小学生、男子中学生、女子高生の3人が「マンガを描かせてあげる」と言って自身の体験を語り出し、それをネタにして描いたマンガは編集部でも評価されることになるが、そこにはマモルだけが知る秘密があるというもの。

マモルの部屋に突然現れる3人が語る思い出に合わせて、何度も回想シーンが差し込まれますが、きちんと時系列が整理されているので混乱することはありません。この3人の正体もうすうす予想でき、なんとなく先が読めそうな展開なのですが、その外見がうまくミスリードしています。そして、3人が語るエピソードを一つ一つ丁寧に描き、それをマンガに落とし込むことで、堀マモルの描く世界に優しく切なく浸れる構成になっており、なかなかに引き込まれます。

この重層的な演出が、マモルの変容と重なってじわじわと効いてきます。全体的にナチュラルな演技や過剰に煽らない演出が落ち着いた雰囲気を生み出し、これが本作の紡ぐストーリーによくマッチしています。他にも、バカ、石、デビュー作、タイトルなど、終盤にかけてさまざまな伏線を回収していく展開も心地よく、脚本がかなり練り込まれているのを感じます。

マンガ家としての仕事のリアリティはやや薄いかもですが、描きたいのはそこではありません。一人のマンガ家が、自分の原点を確かめ、亡き友の本当の思いに触れ、その絆を再確認し、もう一度立ち上がって前を向く姿が心に沁みます。ここにやっと堀真守が、マンガ家・堀マモルとなったのです。「堀マモル」は真守と春であり、きっとこれからも二人は二人三脚で執筆を続けていくのでしょう。

主演は山下光輝くんで、マンガ家として変容していくマモルを好演しています。脇を固めるのは、桃果さん、岡部たかしさん、坂井真紀さん、三浦貴大さん、占部房子さん、竹中直人さんら。中でも、坂井真紀さんと三浦貴大さんの丁寧な演技が涙を誘います。

余談ですが、本日4本目の鑑賞で、本作の直前に「サユリ」と「愛に乱暴」を観ていたので、おにぎりを作る占部房子さんを見て「生き返った!」とニヤついたり、「さっきの小泉真守はクズだったな」とマモル比べをしたりで、別の意味で楽しめました。

おじゃる
セイコウウドクさんのコメント
2024年9月3日

ノーマークの作品でしたが、おじゃるさんのレビューを見て、月曜日に鑑賞。見て良かったです。ありがとうございました。

セイコウウドク