ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディのレビュー・感想・評価
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とびきりのクリスマス映画
ホールドオーバーズとは、「残り物」という意味。
生い立ちや、経歴がそれぞれ異なり一見重なるところのない3人が、雪積もる巨大な山小屋のような寄宿舎の中で、奇妙な共同生活を始めることになるわけですから、当然その関係は、最初ぎくしゃくしたものになります。
私などは、雪深いホテルで一冬の生活を始めた家族が、周囲から隔絶された環境故に発狂した父親により、凄惨な事件に巻き込まれるという、キューブリックの「シャイニング」を思い起こしたりしたわけなのですが、幸いなことにこの作品ではそうした事態には至らず((^_^)、小さな事件が重なって、三人は次第に打ち解けてゆくことになります。
すると・・・「全然違う」と思っていた三人にも、「残り物」という結果に至るそれぞれの背景に意外な共通点があることに、3人が次第に気づいて行くことになるわけですね。そして深いところでお互いを認め合い、理解しあうとでも言ったらようでしょうか。ネタバレになるのでこれ以上は申し上げませんが、そんな3人の心の変化が、3人の表情の見事な変化によって浮き彫りにされていきます。そしてラスト。少しびっくりするような展開が用意されていますが、それがまた爽やかで、とても清々しく滋味深い感動に包まれます。
当時は私も中学生でした。日米で環境は異なりますが、思春期のやるせない疾風怒濤感や当時の音楽や雰囲気は、ああ懐かしいなという感じもあり、これまでに見た「クリスマス映画」の中でもとびきりの1本になるような気がします。
素敵な作品でした。
どこかで見たような設定の組み合わせと思わせておいて、唯一無二の鑑賞感をもたらしてくれる一作
寄宿舎学校の休暇期間中、様々な事情で居残りすることになった学生たちと教師の物語、という出だしなので、青春映画の金字塔『ブレックファスト・クラブ』(1985)みたいな話になるのかな、と思ってたら、偏屈な教師ポール(ポール・ジアマッティ)と様々な問題を抱える学生アンガス(ドミニク・セッサ)の関係にいきなり絞り込まれていくので、ちょっと驚きました。
それなら、『セント・オブ・ウーマン』(1992)とか『グッド・ウィル・ハンティング』(1997)のような、立場も世代も違う男性同士の師弟物語的な展開になるのかなーと想像してたら、食堂担当の職員メアリー(ダバイン・ジョイ・ランドルフ)の存在感が増してきて、また思わぬ方向に展開…、と、先行作品を連想させる設定を多数含みつつ、予断を心地よく裏切ってくれる作品です。
本作は、「偏屈教師」や「問題児」が、相互交流を重ねるなかで人間的に成長していく、という分かりやすい物語ではなく、むしろ前進と過ちを繰り返す、多様な側面を持った人間同士の機微を描いています。例えば終盤、ポールを窮地に追い込む「あるモノ」を、アンガスはどう手に入れたのか。彼の行動を「常識的な正しさ」だけで糾弾することは簡単ですが、そのような断罪は有望な若者の可能性をつぶすことにしかならない。この「正しさ」にあえて背を向けるポールの最後の行動は非常に痛快です。
様々な小道具が伏線となっている点はもちろん面白いのですが(だから目が離せない)、アレクサンダー・ペイン監督には伏線回収の巧妙さを見せつける、という意図よりも、小道具の一つひとつにも役割を与えたい、という想いがあるのでは?と感じました。実に画面の隅々にまで作り手と愛情がにじみ出るような作品です。
また本作は、オープニングの印象的なショットをはじめとして、構図の入念さ、美しさが光ります。この点もぜひ味わっていただきたいところ!
疎外感や孤独感の先にある連帯感
1970年代を舞台にした映画。だから映画の制作会社のクレジットや字幕、スクリーンの画角やノイズに至るまで、時代を感じさせる作りになっている。流れてくる音楽も当時のものだから、個人的にあまりなじみがなく新鮮だった。この時代の音楽って優しいものが多くて心にしみる。
舞台は全寮制の高校。全寮制は経験したことがないが、年末に取り残される疎外感や孤独感はわかる。取り残されたのは、偏屈で融通のきかない教師と、成績はいいが生活態度に問題のある生徒、そして息子を亡くした悲しみを拭えないでいる寮のコックという3人。楽しく過ごすには相当に難しい組み合わせだが彼らが徐々に心を通わせていく流れは王道だけど、やはり感動的だった。3人がわかりあう流れも単純ではないし、どこまでわかりあえたのかも疑問が残る。ただ、それぞれの孤独や生きづらさが徐々にわかっていく脚本がいいし、年齢も立場もまったく異なる3人が通じ合う世界はとても優しかった。相互理解ってこういうことだ。
金を持っているものが力を持つ。当たり前の事だけど、金も力もない3人がそれぞれ社会と向き合う姿にこちらも勇気づけられるし、ときに切なくなり、理不尽な人や物事に怒りを覚えることもある。それでもそれぞれのやり方で生きていかなければならないんだよな。地味にいい映画だった。
JIMI
問題が解決しているわけではないけど、心地がいい
2024年一番の映画
手堅いストーリーだけどそれを退屈に感じさせないしっかりした脚本が見事だと思う。今年の新作映画で一番好きな作品。
妥協しないし皮肉屋で生徒に嫌われている教師ハナム。ボストン近郊の全寮制の名門寄宿学校でハナムはホリデイに家に帰れない生徒の面倒をみる仕事を押し付けられ…。
アンガス役のドミニク・セッサは進学校で声をかけられオーディション参加した新星ということだけど癖ツヨのアンガスはまってて良かった。アンガスとハナムと寮の料理長メアリーという居残り達が学校を飛び出す展開もロードムービー的で好きな展開。
前にSNSで見かけた、「冬の朝、祖母が靴を温めていてくれたって記憶。その記憶、あのときの愛でなんとか生きてる」っていう内容の投稿をなんだか思い出した。誰かが自分を守ろうとしてくれたって記憶は、人を守ってくれる力になると思う。英雄も偉業もでてこないけど、こういうささやかな人間ドラマに心揺り動かされることも、わたしの力になってくれてる気がする。
心温かく…なりそなところで突き放す
クリスマスシーズンの映画をこんな時期に出してくるのは、
クリスマスシーズンに配信するための箔付けなんでしょうかね。
でもその時期にコレ見たら凹みそうな気もする、そんな最後の突き放し方。
絶対ハッピーエンドに見えない、容赦のない感じ。
人に対してやってきたことは、ちゃんと全部、漏れなく自分に返ってくるという
因果応報を、ハートウォーミングな展開の末に見せつけられる絶望感。。。
大学辞めることになった理由も、本人から聞いただけで真偽のほどは定かではないし、
この年で庇ってくれる人もいない中で何の再出発が出来るのか。
誰も支えてくれない、終焉への道行にしか見えなかったのは、自分の問題でしょうか〜…。
宿舎だけで終わるのかと思ったらロードムービーになり、心が温かくなってきたところで、思いっきり突き落とされた気分で終わったので、年末年始には見たくないなと思いました。
アメリカンヒューマニズムの良作
1 年末休暇を寄宿学校で過ごす生徒と教師たちの人間関係の機微を描く。
2 1970年の年末。名門の私立高校が舞台。家庭の事情などで帰省せず学校にとどまる生徒たちがいた。そのお守りに一人の偏屈な教師ハナムと同校OBの息子がベトナムで戦死したばかりの調理場責任者メアリーが残った。面白みのない日々に嫌気がさしていた生徒たちはスキー旅行に出かけることになったが、一人の生徒アンガスは親と連絡が取れず残った。クリスマスを校内で過ごした三人は社会見学と称して、校外に出た。そこで、アンガスはある場所に行きたいとに伝えた、そして・・・。
3 本作では、個人的な悲しみや怒りを抱え、自分ファーストであったハナムとアンガスが、行動を共にするにつれて、心の内を吐露しあい、そしてハナムが自己を捨ててアンガスの才能を活かそうとした姿にアメリカ固有の隣人愛や家父長的な愛に基づくヒューマニズムを感じた。ハナムはさっぱりした顔つきで、校舎を後にし、アンガスは和らいだ表情で校舎に戻って行ったラストショットは印象的であった。
4 一方、メアリーには、心中の大きな悲しみと天使のような慈愛を感じた。息子が死んで独り身となった辛さだけではなく、除隊後の優遇措置を使って大学進学を目指すため入隊させてしまった親としての力のなさや後悔が滲んでいた。そして、恐らく孫用のベビー肌着や靴を生まれ来る甥か姪のために譲ることで思いを託そうとしていた。その中で校内に残ったメアリーは、ハナムに寄り添い、アンガスのために家庭的なクリスマスディナーを用意するとともに二人の仲介役となった。
5 本筋とは関係ないが、現場となった木造校舎の佇まいが荘厳かつ凛として素敵だった。また、当時の時代感を上手く再現していた。
アメリカ的
季節外れが
しみじみとくる良作
オープニングのクラシカルなユニバーサルのロゴに驚かされたが、物語の時代設定が1970年ということなので、敢えて狙ってやっているのだろう。映像の質感を含めたトータルデザインが70年代風な作りになっていて、どこか懐かしさを覚える作品だった。
劇中ではベトナム戦争の影もちらつき、メインキャラの一人、料理長メアリーは息子を戦争で亡くしている。ただ、映画を観る限り、これ以外に当時の時代背景を大きくクローズアップするような箇所はなく、基本的に登場人物は皆ノンポリで、どこか浮世離れしているような印象も持った。
監督はアレクサンダー・ペイン。少し癖を持った悲喜劇を撮らせると大変上手い監督で、心に染みるような良作をたくさん輩出している名匠である。今回は彼の自伝的な内容なのかと思いきや、年齢を考えると、どうもそういうわけではないらしい。
また、ペイン監督は基本的に自分で脚本を書くことが多いが、今回は別に脚本家がいる。彼も年齢から逆算すると、1970年に青春時代を送ったというわけはないようだ。
では、何故1970年なのか?これが自分には今一つピンとこなかった。劇中にアメリカン・ニューシネマの佳作「小さな巨人」が流れるので、もしかしたらアメリカン・ニューシネマのオマージュといった狙いがあったのかもしれない。尚、ここに「いちご白書」を持ってこなかったのも意図してのことだろう。政治色を払拭したかったのだと思う。
更に、物語は中盤からハナムとアンガスのロードムービーになっていくのだが、このあたりにはニューシネマの代表格「さらば冬のかもめ」や「スケアクロウ」も連想された。
そんなハナムとアンガスのやり取りは、時に微笑ましく、時にしみじみと観ることが出来た。二人とも人付き合いが下手で友達がいない孤独な者同士。教師と生徒という立場的な隔たりもあって、最初は全くそりが合わない。しかし、旅を通してお互いの過去や葛藤を知ることで徐々に絆が深まっていくようになる。
また、ここに孤独な黒人女性メアリーが関わることで、物語は単調にならずに済んでいると思った。
例えば、クリスマスイブのパーティーで酒に酔った彼女が取り乱すシーン、3人でチェリーケーキを燃やすシーンなどは抜群の存在感を見せている。彼女がいることでハナムとアンガスの友情がより一層深まった感じがした。
ちなみに、映画前半はアンガス以外に4人の学生が登場してくる。夫々に個性的で面白くなりそうだったのだが、早々に彼らを退場させ、以降はハナムとアンガス、メアリーという3人だけのドラマに転換していく。このあたりの大胆な切り替えにも良い意味で驚かされた。
クライマックスの展開は容易に先が読めてしまうのだが、こういう人情めいた話に自分は弱いということもあり自然と涙腺が緩んでしまった。
また、結末も良かったように思う。このくらいのビター&ウェット感が伴うと気持ちよく受け入れられる。
キャスト陣も夫々に魅力的な演技を披露している。
ハナムを演じたポール・ジアマッティの妙演は相変わらずの見事さである。同じペイン作品で言えば「アバウト・シュミット」のジャック・ニコルソン、「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」のブルース・ダーンに通じるような役所と言えるが、そこに少し毒気をまぶしたような造形に面白みを感じた。
アンガスを演じたドミニク・セッサの独特なビジュアルも印象に残った。本作が映画初出演ということで、今後の活躍が楽しみな新人である。
寄り添う人たち
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