「全体的に少し物足りなさは残るが、嫋やか映像と音楽で、ひとコマひとコマ、丁寧に撮っている」ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)
全体的に少し物足りなさは残るが、嫋やか映像と音楽で、ひとコマひとコマ、丁寧に撮っている
1970年冬、ボストン近郊にある全寮制のバートン校。クリスマス休暇で生徒と教師のほぼ大半が家族と過ごすなか、生真面目で融通が利かず、生徒からも教師仲間からも嫌われている考古学の教師ハナム(ポール・ジアマッティ)は、家に帰れない生徒たちの“子守役”を任命される。
学校に残ったのは、勉強はできるが家族関係が複雑なアンガス・タリー(ドミニク・セッサ)。食事を用意してくれるのは寮の料理長メアリー・ラム(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)。メアリーは一人息子のカーティスをベトナムで亡くしたばかり。息子と最後に過ごした学校で年を越そうとしている(公式サイトより)。
大ヒット映画「ホームアローン」よろしく、アメリカ人が異様に大事にするクリスマスホリデーに取り残された先生、給仕長、生徒の2週間を描く。トレイラーの内容から何となく察せられるストーリーにプラスαが加わるくらいで、どんでん返しや予想を裏切る展開といった類のものではない。机の上に立つ、みたいな映画的な演出もないといえばないので、全体的に少し物足りなさは残るが、嫋やか映像と音楽で、ひとコマひとコマ、丁寧に撮っているという印象。
ケネディ大横領暗殺、キング牧師暗殺、ベトナム戦争への介入など、社会的に大きな混乱をもたらした数多くの事件が起きた1960年後半から1970年前半は、アメリカにとって暗黒の時代であった。そうした混迷を背景に、「ヒッピー」のような「反体制」「自然回帰」「解放」的な思想は主に10代後半から20代前半を中心としたカウンターカルチャーに成長した。そうした時代背景を、ほんのりと匂わせる程度の演出には好感が持てた。また人生訓や、それでも人生は続く、的な押し付けがましさがなく、ナチュラルに散りばめられていたところも疲れずに観られた。
本作で給仕長のメアリーを演じたダヴァイン・ジョイ・ランドルフが、第96回アカデミー賞助演女優賞を受賞した。