「夜の街を歩く。優しく柔らかな視座を持った物語」ゴースト・トロピック 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
夜の街を歩く。優しく柔らかな視座を持った物語
ベルギーのバス・ドゥヴォス監督がブリュッセルを舞台に描く、小さくてユニークな作品だ。移民系の住民の多いこの都市。主人公も50代のイスラム系の女性で、家族が安心して根を張って生きていけるよう、必死に頑張ってきた世代だ。夜間の清掃員として働く彼女は、仕事を終えて地下鉄で帰る途中、つい寝過ごして終点へ。折り返しの電車もなく、夜の街をそのまま歩いて帰ることになるのだが、そこには同じく夜の仕事に従ずる人々の姿があり、寒空の下で交わされる他愛もないやりとりが紡がれていく。だからって何か特別なことが起きるわけではないのだが、しかし透明感あふれる映像、そこはかとない温もりと優しさ、何よりも作り手がこの主人公に寄せる慈しみ深い思いがひしひしと伝わって目が離せなくなる。たまらない気持ちになる。何も知らなければ赤の他人。何気ない他人の日常。しかし一歩踏み込んで望むと、感情が、人生が、凝縮されていることに気づく。
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