「秘密があるのは恥ずかしい?」コット、はじまりの夏 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
秘密があるのは恥ずかしい?
1980年代のアイルランドの田舎を舞台にした映画でした。アイルランドが舞台の映画と言うと、「ベルファスト」や「イニシェリン島の精霊」が頭に浮かびましたが、前者はアメリカ映画だし後者はアイルランド、イギリス、アメリカの合作であり、本作のように純然たるアイルランド映画は初めて観ることになりました。
そこでまず驚いたのが言葉。てっきり英語なのかと思ったら、登場人物たちは全然分からない言葉でしゃべっており、なるほどアイルランド語もあるのかと初めて知った次第。なんともお恥ずかしい限りです。1922年に独立するまで、長らくイギリスの支配下にあったため、英語は今でも公用語として使われているようですが、第一公用語はあくまでアイルランド語だそうです。
そんな本作の内容ですが、内気な性格の9歳の少女・コットが、夏休みに子供がいない親の従妹夫婦に預けられ、人間というもの、そして人間関係というものについて学ぶというお話でした。コット役を演じたキャサリン・クリンチは、本作が映画デビュー作にして主演を演じたそうですが、そうとは思えない自然な演技で、かつ中々の可愛らしさで非常に印象深かったです。
面白かったのは、預けられた先の奥さんであるアイリンが、コットに対して、「この家には秘密がない。秘密があるのは恥ずかしいこと」と言いながら、実は大きな秘密を抱えていたことが次第に分かって来るところ。でもコットはそのことを受け止め、とても優しく接してくれるアイリンのみならず、その夫であるショーンにも徐々に懐いて行くところは、非常に良い展開でした。はじめはぶっきらぼうなショーンでしたが、コットとの距離感を次第に掴んでからは本当の親子のように接することとなり、夏休みが終わってコットが実家に戻る時のお別れのシーンは、結構泣けました。この辺りの筋立ては、非常に良かったと思います。BGMは殆どなく、大自然の音がメインでしたが、この演出も登場人物の心の声を聴けるような感じがしました。
あと、40年以上前のアイルランドの田舎を舞台にしているため、出て来る車が中々カッコよく、旧車ファンだったらより満足が行ったのではないかと想像するところです。
そんな訳で本作の評価は、★4とします。