「これからの香港映画はどうなるのだろう?」白日青春 生きてこそ 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
これからの香港映画はどうなるのだろう?
香港を舞台にした三世代にわたる移民・難民の相克を描いた物語
主人公のバクヤッは、70年代に本土から海を泳いで香港に渡境してきて、今は初老のタクシー運転手。
一人息子のホンは警察官だが、父親にかつては本土に置き去りにされたこともあり、折り合いは悪い。同年代のパキスタンからの難民、アフメドは祖国では弁護士だったが、香港では10年待っても、正式な移民の許可は下りず、悶々とするうちバクヤッの車と接触し、事故に巻き込まれる。
アフメドの子、10歳のハッサンは、もはや香港に将来を見出すことはできないので、カナダへの渡航を夢見るが、現実は、窃盗団の一人として盗品を扱う日々。
この映画の良いところは何だろう。何と言っても、バクヤッを演ずる名優アンソニー・ウォンの存在感に尽きる。その源泉は、彼自身が香港民主化デモを支持したことから、大きな騒動に巻き込まれたことと無関係ではないだろう。
この映画のストーリー自体は頼りない。バクヤッは身勝手で、自分の息子やアフメドとも全く折り合うことはできなかったのに、なぜかハッサンは受け入れ、彼の渡航のために奔走する。いくら、ハッサンの父、アメフドの事故にかかわったとは言え。しかも、バクヤッは血清の肝酵素AST値が2,000で肝不全状態、再び息子の生体肝移植が必要だと言われ、消化管の出血もあるみたいだけど、平気でビールを飲んでいる。生きている間に、罪滅ぼしをしたいのか。
冒頭に、バクヤッの息子ホンが警察の高官の娘と結婚するところが出て来るけど、同じ時期に、アフメドの仲間のパキスタン移民が、インドネシアからの移民の娘と非合法で結婚する(この映画の監督も、マレーシア出身の香港移民とか、彼らは皆、イスラム教徒だ)。ただ、劇中、彼らの消息は聞かない。
97年に中国に復帰した香港や彼らの映画に将来はあるのだろうか。土地が狭く、労働力も限られていた香港では、移民・難民こそが活動力の源泉だった面がある。自由を失った香港からは、旧宗主国の英国や、英連邦のカナダやオーストラリアへ、多くの移住者があると聞く。移民第三世代であるハッサンたちには、香港はもはや北米等への移民中継地に過ぎないのかも知れない。映画にとっては、異文化と接することこそがエネルギーの源であることを忘れずに、あの素晴らしい香港映画を作り続けてほしい。