「良くできた伝記物語」風よ あらしよ 劇場版 てつさんの映画レビュー(感想・評価)
良くできた伝記物語
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前年に『ルイズ その旅立ち』と『福田村事件』を観ていたが、伊藤野枝氏と大杉栄氏の思想について、新しくわかったことも多々あった。福岡からの出奔経緯、平塚雷鳥氏との関係、辻潤氏との関係、大杉栄氏の女性関係。特に、大杉氏が当時の思想家としては優れていても、気後れせず、二度も堂々と批判しているのは素晴らしい。大杉氏の無政府主義の説明を女王蟻なき相互扶助の働き蟻社会だと説明しているのもわかり易かった。パンフレットには、伊藤氏が、自分の故郷の村に存続している組合制度を例に説明した文章が掲載されていた。連想するのは、パリ・コミューンだったり、オーエン氏の協同組合論だったり、カミュ氏の抵抗論だったり、『カムイ伝』だったりする。「無政府主義」という用語は、誤解を受け易いものだと思われる。パンフレットにある吉高由里子氏の伊藤氏評は素晴らしい。
『ルイズ その旅立ち』にあって、本作になかったのは、甘粕事件で巻き込まれた大杉氏の甥の橘宗一氏がアメリカ国籍ももっていたため、アメリカ大使館にも届け出がなされており、警視庁も無視できなかったという重大な事実である。本作では、大杉氏の仲間を演じる玉置玲央氏が伊藤氏の長女と仲良く遊んでいて、NHKG 大河ドラマでは、吉高氏演じるまひろと仇役であるのが皮肉である。
『福田村事件』は、震災から6日後に起こったものだが、それまでの経過を時間をかけて描いていたので、本作で甘粕事件の起きるまでの16日間を短く描いて十分ではなかった部分の背景を思い描くことができた。
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