「アイディオロジストに好きなだけ語らせれば、財布の紐は緩くなる」スイート・イースト 不思議の国のリリアン Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
アイディオロジストに好きなだけ語らせれば、財布の紐は緩くなる
2025.3.17 字幕 アップリンク京都
2023年のアメリカ映画(104分、R15+)
修学旅行中に抜け出した高校生が奇妙な大人と出会う様子を描いた社会風刺ロードムービー
監督はショーン・ブライス・ウィリアムズ
脚本はニック・ビンカートン
原題は『The Sweet East』で、直訳すると「甘ったるい東部(東海岸)」という意味
物語は、サウスカロライナ出身のリリアン(タリア・ライダー)たちの高校が、修学旅行としてワシントンD.C.に来る様子が描かれて始まる
彼氏のトロイ(Jack Iry)や彼にちょっかいをかけるクラスメイトのアナベル(エッラ・ルビン)たちがはしゃぐ中、リリアンはどこか物憂げに彼らとの距離を取っていた
いくつかの観光地を回った彼らは、地元のピザダイニングへと足を運んだ
アナベルたちがカラオケに興じている中、リリアンは席を外して、トイレで一服することになった
その後、店内に戻ってみると、店長(J・パトリック・マクエルロイ)に銃を突きつけているイカれた男(アンディ・ミロナキス)がいた
客は一目散に逃げ出し、その中にいたパンツファッションの男・ケレイブ(アール・ケイブ)は、リリアンに声を掛ける
そして、秘密の出口から地下道を通って逃げ切ることになった
その後、ケレイブについていったリリアンだったが、彼はアナキストの活動家で、ネオナチの集会を襲撃しようと計画を立てていた
映画は4つの章に分かれていて、「Fancy a Trip to Charm City?」「Right on the Delaware」「I’ve never ever been to Hollywood」「First time in Vermont?」となっていた
道程は、ワシントンD.C.→チャームシティ(ボルティモア)→デラウェア→ニューヨーク→バーモント→サウスカロナイアという流れ
リリアンは、その都度本当のことは話さず、友人の名前を騙ったり、直前に得た知識を自分ごとのように話していく
そんな彼女に対して、多くの大人がひたすら語るという内容になっていて、リリアン自身はそれを受け止めるでもなく、スルーするでもなく、という感じに対応していた
印象としては、何にも傾倒していない無垢な若者が「現代のアメリカのイデオロギーの何に反応するか」というテイストになっていて、その答えは「何も琴線にふれない」というものだった
現実に戻っても、それらのイデオロギーは彼女の一部になることはなく、アイディオロジストは自分語りで満足しているというふうにも見て取れる
ある意味、その主義主張に傾倒する人々を揶揄っている感じがして、この中には「現代の若者を取り込める力はないんだよ」と言っているようにも思える
アメリカの内政とその主義についての話なので、日本でウケるはずもなく、アメリカ通のコラムニストの解説をわかったふうで流すのが精一杯のように思う
ある意味、若者の声を聞こうとしない人の集まりのようなものなので、若者たちが傾倒するものというのは既存の枠組みではなく、若者の中から派生するのかな、と感じた
いずれにせよ、最後まで本当の自分を見せないリリアンなのだが、自分の彼氏をクラスメイトに取られても動じないほどに空虚だった
かと言ってそれが不幸にも思えず、自分自身は何者かとか、何かしらの使命感を持って行動している人たちを冷めた目で見てきた
結局のところ、彼女自身の生活に1ミリの影響もなければ興味も湧かない話なのだが、反発するとさらに語ってくることに気づいているのだと思う
気持ちよく自分の言いたいことを言わせられれば、その人のウィークポイントというものも見えてくるので取り込みやすい
彼女が不思議の国を渡り歩いたというテイストに見えるが、実際には「リリアンという不思議の国を旅して打ち砕かれた人々を描いていた」とも言えるので、アンチ・アイディオロジストの力というのは侮れないのかな、と感じた