「シンプルなストーリー展開ながら、飽きさせないアクション」レオ ブラッディ・スウィート 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
シンプルなストーリー展開ながら、飽きさせないアクション
【イントロダクション】
表向きは謙虚なカフェの店長、家では良き夫・良き父である男が、麻薬組織のボスの息子“レオ”ではないかと疑われ、死闘に巻き込まれていくアクション・スリラー。疑惑の男パールティバンを『マスター 先生が来る!』(2021)のヴィジャイが演じる。
監督・脚本のローケーシュ・カラナガージによる、ローケーシュ・シネマティック・ユニバース(以下、LCU)の第3弾(第1弾は2019年の『囚人ディリ』、第2弾は2022年の『ヴィクラム』)。デヴィッド・クローネンバーグの『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(2005)に部分的にインスパイアされている。
その他脚本に、ラトナ・クマール、ディーラージ・ヴァイッディ。音楽はアニルド・ラヴィチャンダル。
【ストーリー】
インド北部、ヒマーチャル・プラデーシュ州テオグという小さな町。パールティバン(ヴィジャイ)は、町で人気のカフェの経営者であると同時に動物保護活動家でもある。彼は、妻のサティヤ(トリシャー・クリシュナン)、高校生の息子シッダルト“シッドゥ”、小学生の娘マティ“チントゥ”と4人家族で平穏な生活を送っていた。
ある日、町を群れからはぐれたブチハイエナが襲撃し、住民達が襲われていた。森林警備隊員ジョシー・アンドリュースの要請を受け、パールティバンは息子の送迎を中断して現場に駆け付けた。彼はあくまでハイエナの保護を目的として、学校の校庭で激しい攻防を繰り広げた末、無事にハイエナを保護する。多くのマスコミは警察へのインタビューに殺到するが、一部のマスコミは町を救った謎のヒーローであるパールティバンを取材しようとしていた。しかし、パールティバンは人目を避けるように現場を後にし、経営するカフェに出勤していた。
一方、シャンムガム率いる逃亡中の強盗団は、逃走資金の確保の為、町で夜な夜な強盗事件を繰り返しており、その過程で獣医師は殺害されてしまった。
平和な町でかつてない凶悪事件が発生する中、強盗団のメンバーの1人が閉店直後のカフェに押し入ってくる。パールティバンはチントゥと従業員女性を守る為指示に従うが、騒ぎを察知した他の強盗団メンバーも合流してしまう。パールティバンは、「強盗団が目撃者である自分達を生かしておくはずがない」と悟ると、彼らと激しい格闘戦を繰り広げる。しかし、強盗団の1人の魔の手がチントゥに伸びた瞬間、パールティバンは強盗団の持っていた銃を拾い上げ、凄まじい射撃精度で強盗団メンバー5人全員の頭部を撃ち抜き、射殺した。パールティバンは、自らの行いに苦悶の表情を浮かべて泣き崩れてしまう。
警察に逮捕され、拘留中の身となったパールティバン。やがて裁判が開始され、彼の常人離れした射撃センスに疑惑の目が向く。しかし、射殺した相手が全員ギャングである事が判明すると、正当防衛が認められ無罪となった。家族やジョシーと共に法廷を後にするパールティバンだったが、報道陣のフラッシュとインタビューの嵐を避けきれずに写真を撮られてしまい、彼の顔は新聞によってインド中に広まってしまう。
無事に帰ってきたパールティバンだったが、騒動の余波は未だ根深く、一家は1日の殆どを自宅で過ごすようになってしまう。そんな中黙っていなかったのは、シャンムガムの妻や義弟達だった。彼らは仲間を引き連れ、市場へとやって来たパールティバンを襲撃する。しかし、彼は再び家族を守る為、襲い来る刺客達を次々と倒していく。しかし、彼の行き過ぎた暴力にサティヤは恐れと疑念を抱くようになってしまう。
ある日、カフェを再開しようと修繕作業中のパールティバンを、謎の男が写真に収める。新聞の記事を目にした男は、テランガーナに拠点を置く麻薬王ハロルド(アルジュン・サルジャー)とアントニー・ダース(サンジャイ・ダット)兄弟の部下だったのだ。写真を目にしたアントニーは、パールティバンが死亡したはずの息子“レオ・ダース”で間違いないと見抜く。
彼は部下を引き連れてテオグの町を訪れ、パールティバンのカフェにやって来る。「自分はレオではない」とアントニーの主張を否定するパールティバンに対し、アントニーは頑として彼をレオと信じて疑わない。
やがて、パールティバンの正体に疑問を持ったサティヤとジョシーは、彼の過去について調べ始める。
【感想】
シリーズ前作である『ヴィクラム』と比べると、本作は「主人公は本当に麻薬組織のボスの息子なのか?」というワンアイデアが推進力となるシンプルな脚本。なので、そのシンプルな謎を巡って161分もの長尺でストーリーが展開される様子は、流石に長いなとは感じた。どうやら、本国でもストーリー面に関しては批評家による批判的意見が多いのだそう。
しかし、序盤から展開される様々なアクションシーンは魅力的であり、音楽の使い方も良く、それらが脚本面のマイナスをカバーして有り余るほどだ。
前作でも音楽の使い方の上手さが顕著だったが、やはりこの監督は音楽の使い方が抜群に上手いのだな、と本作で確信した。引き続き音楽を担当しているアルニド・ラヴィチャンダルの楽曲センスも抜群だ。
序盤の見せ場であるブチハイエナの捕獲シーン、疑惑の目が向く原因となった強盗団5人を銃殺するシーン等、要所要所に見せ場が多く、それが単純なストーリー展開でも退屈させないようになっている。
物語後半の雪降る夜道でのカーチェイスシーンは、CG感丸出しながらも外連味がある。クライマックスのダース社工場での多人数vs1人アクションの盛り上がりも凄まじく、ハロルドとの一騎打ちもテンションが上がる。
とはいえ、クライマックスでパールティバンと対決するのが、実の父であるアントニーではなく、叔父のハロルドというのはどうなのだろうか?これまで散々、「俺はアンタの息子レオじゃない!」と主張してきた以上、最後にパールティバンが「俺がレオだ」と明かすのは、やはり父であるアントニーであるべきだったように思う。実の父に「他人だ」と認めさせた上で正体を明かす事で、レオも「アンタは俺を息子じゃないと認めたな。そう、もう俺はパールティバンだ!」と、高らかに親子の縁を切って勝利宣言をし、長きに渡る宿命に終止符を打つ意味も出て来ると思うのだ。
また、流れで言ってしまうと、アントニー役のサンジャイ・ダットの風貌が、前作『ヴィクラム』で主人公ヴィクラムを演じたカマル・ハーサンと酷似しており、紛らわしい印象を受けた。LCUの展開を知っている身としては、彼が最初にカフェを訪れた際の物々しい登場の仕方(おまけに、直前には前作で登場した娼婦のマーヤーが意味深なメッセージを残してカフェを訪れていたので)や、依然としてギャングに狙われるサティアを助けた瞬間は、ヴィクラムがチーム加入&助太刀に来たのかと思ったくらいだ。
サティヤ役のトリシャー・クリシュナンが全編に渡って美しい。本作の公開当時は既に40歳を迎えている彼女だが、未だに娘役から母親まで幅広い役柄を演じているそうで、衰え知らずの美貌の持ち主なのだろう。
本作では、中盤に明かされるレオの過去回想にて盛大なダンスシーンが披露されるが、その出来も素晴らしい。過去回想のみでの登場となるレオの双子の妹・エリサ役のマドンナ・セバスチャンも僅かな出演時間ながら存在感を放っている。
副題にもなっている“ブラッディ・スウィート(激甘)”が、パールティバンとチントゥのチョコの味についてのさり気ないやり取りでありながら、レオの正体を遂には諦めたハロルド達の甘さを差しており、ラストでタイトル回収する様も良い。
ラストでヴィクラムがレオをチームに勧誘する映像もあり、いよいよ大きな物語が本格始動したのかと思うと激アツである。エンディング曲で前作のテーマ曲である『ヴィクラムのテーマ』に本作『レオのテーマ』をリミックスし、更にロレックスの「“様”はどうした!?敬称を付けろ!」という台詞まで盛り込まれているのもテンションが上がった。
ところで、本編鑑賞後に日本版の予告編を改めて見てみると、「あれ?こんなシーンあったっけ?」と思うシーンがチラホラあったのだが、編集段階でカットされた未公開シーンだろうか?
【総評】
主人公の過去を巡る謎と、キレの良いアクションやダンスシーン。多少尺の長さを感じさせつつも、これまた熱量ある素晴らしいインド映画だった。LCUの今後の展開含め、シリーズの更なる発展にも期待したい。
ところで、レオ役のヴィジャイは政界進出の為に俳優業を引退するそうだが、本作の役はどうなるのだろうか?
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