「アイスマン・フォーエバー」ヴァル・キルマー 映画に人生を捧げた男 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
アイスマン・フォーエバー
ヴァル・キルマー死去。
咽頭癌で声を失い、俳優業を休止していたが、『トップガン マーヴェリック』で感動的なカムバック。
再び俳優業に意欲を見せていた矢先…。
闘病中のヴァル・キルマーを追ったドキュメンタリーがあった事を思い出し、追悼を込めて鑑賞。
ヴァル・キルマーのキャリアや闘病中の姿を、プライベート映像や出演作の貴重なオフショットで構成。
撮影はヴァル・キルマー本人。ビデオカメラが世に出てから回し続けていたという。
子供時代~映画界へ~闘病しながら精力的にファンの前へ。
そこから見えるヴァル・キルマーの素顔とは…?
ネイティブ・アメリカンの血を引く父、信心深い母の下、3兄弟の次男として誕生。
ビデオカメラを回し、兄弟で映画を撮影。まるで『フェイブルマンズ』。
末の弟が早くに死去。両親が離婚。ヴァル・キルマーにとって深い心の傷に。
本格的に演技の道へ。名門ジュリアード演劇学科に。
兄弟で映画を撮ってた時は“名優”だったが、次元が違った。
同期にショーン・ペンやケヴィン・ベーコン。
演出家からは厳しい指導。
舞台やTVドラマに出始め、映画でもデビュー。
そしてあの映画とあの役に出会う。
『トップガン』。アイスマン。
挑発的な役柄に当初はあまり乗り気では無かったそうだが、撮影の空いた時に役を自分なりにリサーチ。トニー・スコットとの仕事は大きな糧に。
自分や共演した若い連中にとって、この作品の以前と以後では世界が変わった。
黄色い歓声を浴びる存在へ。出演作も続く。
『ウィロー』で共演したジョアンヌ・ウォーリーと結婚。2児の父に。
絶対にやりたかったという『ドアーズ』のジム・モリソン役。
『トゥームストーン』のドク・ホリデイ役はお気に入りの一つ。
良くも悪くもキャリアの代表作となった『バットマン・フォーエバー』。子供の頃から憧れのヒーロー役に興奮したが、スーツや顔が見えない演技に苦労。
『ヒート』ではマイケル・マン×アル・パチーノ×ロバート・デ・ニーロとタッグ。
『D.N.A.』では憧れのマーロン・ブランドと共演。
順風満帆に見える一方…
その『D.N.A.』の撮影裏。
監督が途中降板。代打ジョン・フランケンハイマーとマーロン・ブランドが揉めてブランドが撮影に来なくなる。ヴァル・キルマーらもフランケンハイマーへ不満続出。
残念な出来だった『D.N.A.』。裏でこんな事あったのか…。納得。
プライベートでもジョアンヌ・ウォーリーと離婚。両親の離婚経験や子供たちの為に受け入れたくなかったが…。
作品や役、撮影について意見をする事しばしば。ハリウッドでも扱い難い俳優と言われるように。何だか、聞いた事あるような…。
いつの間にか大作や主演は無くなり、助演や規模の小さな作品ばかり。
全盛期は過ぎた。
そして病魔に…。
闘病しながらも、ファンの前に立つ。
テキサスで『トゥームストーン』のイベント上映。元バットマンとしてコミコン出席。
健在ぶりにファンは喜ぶが、当人の胸中は複雑。
何故なら、過去の姿しか見せられないからだ。
声を失い、役者として致命的。これからのヴァル・キルマーはもう…。
ヴァル・キルマーの役者人生は幸か不運だったのか…?
確かに第一線から退いた。
が、演技に対していつも貪欲だった。
病魔直前、家族の思い出で自身の財産である土地を売ってまで、ある舞台を。長年やりたかったマーク・トウェインに扮した劇。
今まで見た事のないヴァル・キルマーであった。
だからこそ、本当に惜しい。
病魔に襲われなければ、また新たなキャリアが開けていただろうに…。
本作はここまで。
大病と闘いながら、演技を追求し続けたその姿。
この後なのだ。あの作品、再びあの役で感動のカムバックをしたのはーーー。
改めてご冥福お祈りします。
アイスマン・フォーエバー。