劇場公開日 2024年6月7日

「河合優実と河井青葉のこと」あんのこと BDさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5河合優実と河井青葉のこと

2024年9月16日
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鑑賞方法:VOD

泣ける

悲しい

怖い

ナミビアから、河合優実繋がりで鑑賞。アマプラもこのタイミングで配信開始とは分かってますね笑

しかしそれにしたって、酷い話すぎる。事実は小説よりも、とはよく言ったもの。世の中というものの理不尽に改めてズンと来る気持ちになるお話でした。実際に起こったであろう事象に関して語るのも良いかと思うものの、ここではあえてそこを外して、映画ですから映画として見た時どうかと言うお話を。

重い話ながらもストーリーテリングは明確で、良くも悪くもプロットは分かりやすい。実話ベースの映画に対して失礼かも知れないですが、「わかりやすすぎる」とも感じました。露悪ショーのような作りに見える側面もある。映画論として手放しで「良い」とも言えない感覚は残ってしまいましたね。

その中でしかし、役者は本当にすごい。ステレオタイプに陥ることなく、異様な実在感であんを演じ抜いた河合優実の凄み。ナミビアともう顔そのものも違って見える。最初の売春?薬物の取引?両方?のシーンで、金を払いたくないのか財布を開けられるのを防ごうと組みついてくる男に「ねぇちょっと…」と言って嫌がるシーン。あのニュアンス、相手型に拒絶と取らせることが出来ないような、絶妙に意志の弱い拒絶なんですよね。ああ、この子は「言えない子」なんだ。それを言い方で伝えるニュアンス力。
終盤の母親に対する「てめー子供返せよ」→「誰に向かっててめーって言ってんだ」、包丁→「お前母親刺せんのか」のくだりも人間の弱さの絶妙なラインを演じあげていて、本当に痛かったシーン。懸命に意志を振り絞ってささやかな抵抗をするんですけど、結局は生き汚い母親に蹂躙されてしまう心。

そんな河合優実と今回並んで私が「ヤバさ」感じたのは、母親役の河井青葉。
いわゆるバイプレイヤーの認識の方が強いかもしれません。たくさん見たわけではないですが、いろんな映画に登場している役者さんだと思います。印象深かったのは、安田顕主演「いとしのアイリーン」で主人公が暮らす村のパチンコ屋で一緒に働く、押されたら誰とでも寝てしまう、陰のある美人の役。濱口竜介監督作品にもよく出ている印象があります。

この役が本当にもう、ムカついてムカついてたまらない笑
言ってしまえば再現ドラマのような、なかなかリアリティが出しづらい役どころだと思うんですが、とにかく迫力に全振りしてて、見ていて巨大な悪のエネルギーを感じました。
まず、声がデカい。ドスの効いた声で年端もいかない娘を生物として圧迫する。ババァ餓死させんのか?シャブ打つ金があったら家に入れろよ!売ってこい!最低最悪のクズ台詞をこれほどまでに野太い声で言い放つ女性がいるだろうか…そして暴力もすごい。組み付く、はたく、蹴る、これらの動きに毒親特有のイヤ〜な「念」のようなものが乗っかってる。見るだけで嫌な気分になる所作。

怒鳴りつける。囲い込む。追いかけてくる。人間として大切なものの凡そを捨ててしまった母親。良識、世間体も一切気にすることなく、金づるとしての娘に一直線に向かっていく、まるでゾンビのような禍々しさ。一方ではその母親も、自分の母の介護だけは(おそらくだいぶ適当ながらも)投げ出すことなくやってるんですよね。このあたりの背景は気になりました。

そして、あんを決定的に道ならぬ道に戻してしまった一件。「おばあちゃんがコロナになったかも…」その一言に子供を連れて母親の家に帰ってみたら、そこにいたのは健康体の祖母。あんが物事を把握した瞬間、母親は彼女の弱みである子供を奪い取り人質に…最低最悪!クズofクズ!プロレスだったら最後にこのクズがやっつけられる展開を持ってくれば、東京ドーム満員間違いなし笑

…なのですが、これはあくまで事実に基づいた物語。少し気になったのは、母親の視点、早見あかり演じるあんの隣人の視点、多々良の視点、おそらく意図的にでしょうが深く切り込んではいません。人にはそれぞれ事情があるから悪人なんていないのよ、という見方を必ずしも推奨するわけではありませんが、「どうしてこんなことになったのか」は少し掘り下げて描いて欲しかったかなぁ、と言う気持ちはあります。絶対悪はエンターテイメントの中のお話。リアリティを生み出すのは、それぞれの人間としての営みの描き方、だと思ってます。

話としては、まずそこに不幸があります、と言うところからスタートしており構造的な理解に欠けている作りになっているのが一つ、私がもう一つ乗り切れなさを感じた理由でしょうか。まぁそれやると多分四時間ものですし笑、焦点を絞ったと言うことかも知れません。事実としても、知りたいですけどね。少し、不幸の側面を純粋培養しすぎているかなと言う感じは受けたかなと思います。

あえて映画論としてのレビューをしましたが、改めて事実としては本当に痛ましい話ですし、こんなことが起こる世の中であってはいけないと思います。何らかの関係者というわけではありませんし、映画に触れたと言うだけの人間ではありますが、末端ながら、ハナさんのご冥福を心からお祈りいたします。

BD