「虐待被害者の希望を踏みにじる、問題含みの映画」あんのこと andgiftさんの映画レビュー(感想・評価)
虐待被害者の希望を踏みにじる、問題含みの映画
本作は、21歳の杏の壮絶な人生を描くという意図を掲げながら、結果的に虐待被害者の経験を不適切に扱う問題作となっている。
虐待という重いテーマを安易に取り上げ、それを単なる悲惨さの展示品のように描く姿勢には、虐待経験者への配慮の欠如を強く感じる。
物語は一時、刑事の多々羅(佐藤二郎)が運営する「サルベージ赤羽」を通じて、主人公・杏に希望の光を見せる。しかし、この希望すら最終的には虚しいものとなる。
多々羅の逮捕、コロナ禍による学校生活の中断、継続する母親からの暴行など、主人公を取り巻く状況が急激に悪化し、最終的には彼女を自殺に追い込む展開は、ショック効果を狙った安直な手法であり、実際の虐待被害者の心情を踏みにじりかねない危険性をはらんでいる。
監督が実話をベースにしたという点も、虐待という深刻な問題を安易に映像化することの倫理的問題を浮き彫りにしている。
社会問題を提起するという建前は理解できるが、その手法は拙速で、虐待経験者への配慮を欠いている。
「あんのこと」は、現代社会の闇を描くという名目で作られているが、結果的に虐待被害者の痛みを軽視し、観客、特に同様の経験をした人々の気分を害する可能性が高い作品となっていると感じた。
主人公が積み上げてきた希望を一つ一つ崩していく展開は、虐待被害者の回復の難しさを示そうとしているのかもしれないが、その描写は過度に残酷で、エンターテイメントとして失敗作だ。
評価: ★☆☆☆☆ (5段階中1)
このような虐待被害の映画化は果たして適切だったのだろうか。
虐待被害者の痛みと回復の過程をより慎重に、そして希望を持って描くべきではなかったか。この作品は、虐待という深刻な問題を扱う際の倫理的責任と、芸術表現の自由のバランスについて、重要な問いを投げかけているではないのだろうか?