劇場公開日 2024年6月7日

「希望も絶望も知ってしまったその先の顛末」あんのこと 上田さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0希望も絶望も知ってしまったその先の顛末

2024年6月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

主人公杏について「希望はおろか絶望すら知らず」とパンフレットにあるそうですが、それが全ての不幸の始まり。彼女は学校に行っていなかったから漢字が読めないけれど、それ以上に無知だ。無知だから何かあった時に誰かに相談する、警察に行くなどという想像力が働かない。誰かに相談に乗ってもらうという私たちが普通に選択している行動もそういった経験があってのこと。杏は介護施設で働き社会性を少しずつ身につけていくが、突発的なことが起こるとその先は感情のまま、衝動のままに行動する。社会の中ではその行動は全く正しくは無いんだけれども、守るべき存在が出来た時杏はとても優しく一生懸命に生きている。
ほとんど笑わず多くを語らない杏の微妙な表情の変化は演技も映像も秀逸。衝撃的な内容をわかりやすいセンセーショナルさに頼らず作ってある映像表現がとても好み。
多々羅に勧められ細かく日記をつける彼女はとてもマメだ。そのマメさがラストに悲しく響く。

仕事に行き詰って気分転換にふらっと観に行ったのだけど、鬱々とした、しかし一生懸命生きていかなきゃああ今日は良い青空だ、みたいな変な気分になってしまった。公式HPの文言を読んでもう少し希望がある物語なのかなと思って行ったんだけど……これしばらく引きずるやつ。でも大当たりでした。
河合さん佐藤さん稲垣さんのインタビューが良かったです。

上田