「絵は好みじゃないけれど、世界観は自分のイメージと近かったです。」めくらやなぎと眠る女 ほりもぐさんの映画レビュー(感想・評価)
絵は好みじゃないけれど、世界観は自分のイメージと近かったです。
村上春樹の原作が短編集なので、オムニバス的なつくりかと想像していましたが、一本にまとまっていて感心しました。
このフランス人の監督さんは、本当に村上春樹が好きなんだろうなぁ…愛を感じました。
ただ、私には絵が少し微妙に思えました。
これは好みなのでどうしようもないのですが、実際、女性はなんだか皆ゴツゴツしているし、主人公である小村や片桐はお世辞にも魅力的とは言いがたいし、子どもに至っては大人か子どもか分からずちょっと気持ち悪い…。
だからといってアイドルマスターみたいな絵でも困るのですが、もうちょっとなんとかならないのかという気持ちはありました。
子どもに聞くと「それはわかっていてやってるんだよ」ということです。
そりゃそうですよね「頑張ったけどどうまく描けなかった!」なんてことはあり得ないわけで。
ただ、かえるくんだけは飛び抜けてクオリティが高かったので大満足でした。
100%イメージ通りなのはかえるくんだけ!と言えるくらい、細部までよかったし、キャラクターも喋り方も思い描いていた通り。
吹替版で見たのは正解でした。字幕版は監督自ら声をやっていたそうで、そちらも気にはなるけれど、原作も舞台も人物も日本なので日本語で見るのが自然な気がしました。
ひとつひとつのストーリーに一応の結末はあるものの、描かれている以上の意味が読み取りにくく、「これは何かのメタファーなんだろうか…???」と頭をひねるところも村上作品の読後感と近いものがありました。
主人公たちが皆フワフワしている中で、彼らに関わるかえるくんやレストランオーナーがはっきりとしたスタンスなのが小気味よかったです。アクセントが効いてるっていうのかな?
小村の「なんかわからないうちになりゆきで初対面の女の子といい感じになる」ところは村上春樹っぽくて気持ち悪いし(褒め)、片桐の「自分にはなにもない」という卑屈で自虐的な心情の吐露も村上春樹っぽくて気持ち悪かったです(褒め)。
登場人物が皆70年代あたりを生きている人のような、不思議な感覚も村上春樹らしい。
元の短編集が観念的なものですから、そのいくつかを再構築してひとつにまとめても、起承転結のあるテーマの明確な話になりづらいのは当然のこと。
ですので「だから結局なんなんだ!?」という気持ちがわいても無理はありません。
理解できなくても落ち込む必要なし、雰囲気を味わえば楽しんだことになると思います。
(興味深いという意味で)面白い作品ですし、村上春樹ファンならずとも挑戦してみてほしい映画です。