「彼らの身体、彼らの心は誰のものか。」ドクちゃん フジとサクラにつなぐ愛 A・ガワゴラークさんの映画レビュー(感想・評価)
彼らの身体、彼らの心は誰のものか。
ドクちゃんことグエン・ドクは40歳になった。その命はベトナムの勝利と連合軍の枯葉剤の罪の象徴でもある。
ドクちゃんは、自分の葬式は国によって行われるだろうが、それは国の医学的成果のためであり、自分のためではないと語る 。
ベトちゃんドクちゃんは1881年に胴体を共有する結合双生児として生まれ、ベトちゃんの様態悪化に伴って88年に日赤の協力のもとベトナムで分離手術が行われた。日本でも募金活動が行われている。ベトちゃんはそのまま昏睡し目覚めぬまま2007年に息を引き取った。
ドクちゃんはその後、学校に通い、恋をして結婚して、フジくん、サクラちゃんという双子が生まれる。双子は中学生になり最初は博物館などに付き合ってくれるが、お父さんの故郷へは付き合ってくれない。小さい家に暮らし、子どもたちは塾に行き、靴下を洗ってくれ、肩を揉んでくれる、普通のありふれた親子だ。
ドクちゃんは観光客に枯葉剤の影響を話すガイドツアーに協力している。広島大学の客員教授もしている。
劇中では大阪の和泉長野市東中学校を訪れ公演を行うが、その前のレクリエーションでの弾けるような笑顔を見せ、松葉杖と片足でサッカーをしてみせる。「僕は何でもできる」という言葉も勇気を与えてくれるだろう。
一方で腎臓は弱り、ストーマを付け、痛みやめまいに見舞われる。それを押して「戦争はいけない」と語ることをライフワークのようにしている。
何のためにそうしているのか、映画を最後まで見るとわかるだろう。
映画は家族の暮らし、双子の成長、小さな幸福を主として捉えつつ、ドクちゃんの病気や活動、結婚の思い出、ベトちゃんの思い出が徐々に語られる。
また色々な立場の人と話すシーンがあるが、相手の語りによってドクちゃんという人間を浮き彫りにする。
ドキュメンタリーとしては手堅く、ドクちゃんの生活、生き方に寄り添って撮られている。