「落ち着いた台詞劇 これが今の北京の空気感? 追記」来し方 行く末 ふくすけさんの映画レビュー(感想・評価)
落ち着いた台詞劇 これが今の北京の空気感? 追記
弔辞の代筆サービスは日本でもあるらしい。
5000〜15000円くらい。
弔辞代筆が北京でどのくらいポピュラーのものかは分からない。
この作品は2023年公開。
マスクがでてくるのでコロナの残滓がある空気感だ。
ウェンが弔辞代筆を請け負うのは映画の中で4件。
①同居していた父親との交流が少なかった男性
②CEOの突然死に戸惑うあとを継ぐ経営者
③余命宣告を受けて自身の弔辞を依頼する婦人
④ネットで知り合った顔も知らない声優仲間を探す女性
途中で北京でおそらく成功している人物として描かれた①の男性はウェンに4000元(82000円くらい)を振り込む。
多分、相場よりずっと高い金額なのだろう。
それでも、あの丁寧さで弔辞を書いていたのであれば生活は苦しかろう。
全体にストーリーは淡々と進み、大きな事件は起こらない。
おそらく人に疲れて動物園で観察をするが、それでも着ぐるみを来てゴリラの世話をする飼育員という人間を相手にすることになる。
同居人は謎であったが、彼はウェンが脚本の中で育てられた架空の小尹(シャオイン)であることが最後に明かされる。
ウェンはおそらく脚本の学校にいる頃からその才能を認められていたのだろう。
多くの脚本を依頼されているのだ。
ただ全てが未完成。
この静かな展開、4件の弔辞案件を重ねる手法、大成功で終わらないラストシーン。
死者は全て残された関係者によって言葉のみで語られ写真さえ登場しない。
癌の老婦人の葬式では姿は映されない。
①〜④の人生は台詞のみで描写され、ラジオドラマでもよかったのではないかと思うくらいだ。
ウェンは、それでも遺族の感謝を糧に一歩踏み出す。
そこで小尹(シャオイン)は消える。
とても静謐で成熟したドラマだ。
こういう機微は中国の古典にあるのだろうか?
あぁ、文化的にも大陸は侮れない存在のようだ。
ただイケイケドンドンでないのは衰退も感じなくはない。
追記
ウェンの漢字は「聞善」
これは漢字文化圏でないと分からないだろう。
ウェンは書けなくて苦しむが「聞く」ことで救われていく。
ウェンのアイスクリームを買ってくるシーンは記憶されるべき。
原題「不虚此行」は日本語で「行ってよかった」「無駄足ではなかった」
行くは、逝くとウェンが前に進むことの意味でしょうか。
英語版の題は、all ears 耳を傾けてください。
ふくすけさん
いい作品でしたね。
この映画の事は忘れたくなかったので、こうしてコメントを頂けてとても嬉しかったです。
独りでいたくて、人を避けて内に籠もりたい自分であったとしても、いろんな人たちが、強弱をつけて、そして近かったり遠かったりしながら、ときには土足で!私たちの人生には関わってくるんですよね。
どんな人が僕の人生のそばには居てくれただろうかって、じっと考えた映画でした。