TATAMIのレビュー・感想・評価
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イランまじひどい
2025年劇場鑑賞70本目。
エンドロール後映像無し。
最初はただの柔道の映画かな、と思っていましたが、隷属国のイスラエルに勝ったらまずいからケガしたフリして棄権させろ、と、イラン柔道協会長から世界大会試合中の監督に連絡が来る所から始まります。
別にその時まだイスラエルと試合する事は決定しておらず、まぁ試合決定してから棄権しろという話でもないのですが、イランが国に残っている監督や選手の家族を逮捕するのはほんとクソみたいだし、なんなら「国に脅迫されています!」とメディアに言っちゃえ!とずっと思いながら観ていました。
別にモノクロじゃなくても・・・とは思いましたが、後でこの映画のスタッフ全員がイランから亡命したと聞いてその映画人の勇気に星5つです。
先日みた『聖なるイチジクの種』同様関わったイラン人キャスト・スタッ...
先日みた『聖なるイチジクの種』同様関わったイラン人キャスト・スタッフは全員亡命を余儀なくされたという状況で作られただけあって、イランの体制側がイスラエル選手と対戦しないように主人公に棄権をするよう圧力をかける様はリアルに描かれてるが、なぜイランがイスラエルをボイコットしたがるのか、主人公以外の選手の心情はどうなのか(自分達も危険にさらされるかもしれないし、イスラエルに反感もってるかもしれない)が描かれてないのがちょっと不満が残りますかな。イランとイスラエルの監督が共同で撮ってるらしいのでその辺は掘り下げられなかったかもしれませんが。
あとは柔道の話なのに日本人がほぼ出てこない(イスラエルの選手が一回戦で勝った相手の道着に日の丸がついてたかも)のが気になったけど、限られた製作環境のなかアジア系の俳優の雇用などが困難だったのかなと察します。
エキサイティングな映画なのにしっかりポリティカルなのが凄い
世界選手権の柔道女子の開催中のスタジアムの中だけで厳しい事態が進む、にも関わらずハラハラドキドキが止まらないエンターテインメントの良さを湛えつつも、イラン政治の理不尽をとことん突く傑作です。映画の持つ力を思い知る最良の作品です。
何故モノクロなのかわかりませんが、ビスタサイズのやや狭いサイズで、まるでドキュメンタリーかと思うイントロです。特段実話ベースとも示されませんが、近似の現実の事件をモチーフにした創作とのこと。2019年、日本武道館での世界柔道選手権で実際に起こった事件を指すらしい。見慣れぬ出演者の中に「聖地には蜘蛛が巣を張る」の美人さんザーラ・アミールが女子柔道の監督役として出ていたから、すぐさま劇映画だと判明した。その前作同様にフィクションベースでもって現実のイラン体制を厳しく糾弾する。
ジョージアの首都トビリシで開催中の女子世界柔道選手権。イラン代表のレイラ・ホセイニと監督のマルヤム・ガンバリは、順調に勝ち進んでいくが、金メダルを目前に、政府から敵対国であるイスラエルとの対戦を避けるため、棄権を命じられる。これが総ての映画であり、それにどう対処するかが描かれる。
ほとんど脅迫のレベルで、当事者の家族が拘束される事態。政治的思惑で体面優先の思考では、当事者が困窮するまで徹底した脅迫が政府によってなされる。その恐怖たるや、テヘランから遠く離れたジョージアの会場までも、大使館員を動員してあの手この手で主人公を追い詰める。そのやり口の陰湿なこと実におぞましい。
この人権侵害を受け大会を主催する国際柔道連盟が彼らの援護にまわる。オリンピック亡命も耳慣れた現実の通り事は進む。イランでは最高指導者が決めたことは絶対で、実質独裁と何ら変わらない。下僕達が忠実に理不尽な命令を実施させようと必死なのも、独裁国家ならではで、遂行しなければ自らの地位どころか命すら危ういから。国家なんて抗えばすぐさま国民を縛り上げるもので、民主主義なんて享受するものでもなく授かるものでもない。皆が戦わなければ維持できないものと改めて思い知る。
このヒリヒリ感を柔道の試合の進行としながら、切り返しで描く巧みが本作の白眉。柔道ゆえ日本語由来の用語が実況中継に交じり、取り組みをする二人の選手の動作とをリンクさせ、念入りな編集がスリリングを盛り立てる。実際の試合ではなく、撮影用とは言えサスペンスの熟成も見事なものです。役者さんなのによくぞここまで取り組んだと驚きました。
イラン代表が勝ち進むか、イスラエル代表がどこかで敗退するかによって国家が案ずる事態も変わってくる。にも関わらず、命令に背いた時点で反逆者の烙印おされ、母国に帰れば刑罰と家族離散しかない現実。当然に、決意を決めた監督ともども亡命の道を選択する。公開中の「聖なるイチジクの種」もイランの惨状を告発する西側サポートの下で制作された。
なにしろフラッシュバックで描かれる、テヘランでの夫婦の生活は愛に満ち、秘密ディスコではヒジャブを脱ぎ捨て踊りまくり、妻の世界大会だからと親戚一同集まってのテレビ観戦では誰一人ヒジャブなんかしてなく、結構豊かなヘアスタイルを楽しんでいる。これを宗教警察が取り締まるなんて到底無理にしか思えない。
難しければ、優れたテーマがあれば、高尚な意思があれば・・いい映画って言えるわけもなく。その上で時間芸術たる心理の持続性、すなわち見せる悦びを同時に満たしてこそ本物の映画なのです。思いもかけず秀作に出合え、こんな嬉しいことはありません。
近くて遠い国
【”スポーツに政治を持ち込むな!選手は母国のためにスポーツを遣っている訳ではない!”今作は、恐ろしくてスリリングでサスペンスフルなイラン国家スポーツ介入ポリティカルJUDOムービーである。】
ー ジョージアで行われる世界選手権に出場したイランの柔道女子代表のレイラ・ホセイニ(アリエンヌ・マンディ)は、監督の元選手だが過去の大会で、”怪我”により棄権をしたマルヤム・ガンバリ(ザーラ・アムール)と共に、難敵を内股、支えつり込み足、巴投げなどの技で勝ち上がって行く。だが、途中でイラン政府や最高指導者から敵対国イスラエルとの対戦を避けるために棄権を命じられる。圧力は監督のマルヤムにも及ぶが、レイラは頑なに棄権を拒否し勝ち進んで行く。-
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作が、2019年に日本で開催された世界選手権で起きた実話に基づくという事実に驚く。
・映像は非情にスリリングでサスペンスフルである。レイラの柔道の試合の映し方も巧いし、それと並行して彼女の夫と子供が国境を超えるために当局から逃げるシーンが映されるのである。
・何度もマルヤム・ガンバリ監督の携帯に掛かって来るイラン政府からの脅迫電話。そして、レイラの両親を拉致した動画まで送られて来るのである。そんな中、怒りと哀しみを抱えて、トイレの鏡に額を打ち付けるレイラ。流れる血。だが、彼女はそれでも棄権せずに試合を続けるのである。
イラン大使館の男達が、レイラを棄権させようと様々な手段で脅しをかけるシーンも恐ろしい。
彼女の止血をする医者も、且つてスポーツ亡命した人であったり、WJA(世界柔道協議会)の会長やスタッフが懸命にレイラとマルヤム・ガンバリ監督をサポートする姿が、神々しく思えてしまう。
・マルヤム・ガンバリ監督は途中で、政府の圧力に屈しレイラに棄権を促すが、彼女がそれを拒否し戦う姿を見て、全てを捨てて彼女を応援し、且つて棄権した真相をレイラに明かすシーンも、生々しい。
<今作の制作に関わったイラン出身者は全員亡命したという事であるが、スポーツに政治が介入する事は今でも起こっているのである。今作のラストでレイラとマルヤム・ガンバリ監督が、難民選手団として試合に臨むシーンでエンドを迎えるが、スポーツ選手の自由と尊厳を守る戦いは今でも世界の何処かで続いているのだろうな、と思った作品である。>
勝てなくても、戦う意味ーー圧政下での自由への闘争
観ている間ずっと息苦しさを感じる映画だった。
イランの国家権力は強大で、個人の自由は存在しない。そこに抗おうとする主人公が、どれほど無力で、どれほど選択肢を奪われているのか。
圧倒的な抑圧の中で彼女が取る行動は、決意の表れというより、もはや「生きるための本能的な選択」に見えた。
試合中、彼女は呼吸が苦しくなり、試合用のヒジャブを脱ぐ。呼吸が楽になり、再び動けるようになる。これが、象徴的なシーンだった。ヒジャブを外すことで彼女は初めて「息ができる」。
宗教の抑圧、国家の支配、その両方を象徴する布を取り去ったことで、彼女は一瞬だけ自由を感じることができる。だが、それはあくまで一時的なものでしかない。
体制は絶対的な存在として描かれた。国家はすべてを監視し、命令に従わない者は粛清される。
コーチは家族を守るために最初は体制側に従うが、主人公の闘志を目の当たりにし、彼女を支える側に回る。だが、その瞬間、彼は国家の復讐に遭い、容赦なく排除されそうになる。
この映画では、イランの政権側は絶対的な悪だ。そこに「体制側の言い分」や「葛藤」は一切描かれない。ただ、冷酷に、圧倒的な力をもって個人を押し潰していく。
そのため、観客としては、主人公が最後まで「戦うことしかできない」状況に共感しつつも、「どうにもならない無力感」に囚われることになる。
この映画は単純な「勝利の物語」にはならなかった。もし、彼女が体制に抗いながら勝利を掴んでいたら、それは西洋的な「自由の勝利」の物語になってしまうだろう。
でも、この映画は違った。彼女は戦ったが、勝てなかった。彼女がどれだけ努力しても、どれだけ強くなっても、国家の抑圧は揺るがない。
だが、それでも「戦うことには意味があった」。
この映画を観ていて、最近見た「聖なるイチジク」を思い出した。同じく神権政治の抑圧下でのイランの物語だ。あの映画で抑圧者の象徴として描かれる父親は、システムの中で生きることを強いられた犠牲者でもあった。だからこそ、観客は彼に対しても一定の理解を示すことができた。
「TATAMI」にはその余地がない。国家は悪、個人は犠牲者。ただそれだけの構図だった。その分、テーマは明快で、わかりやすいが、人間ドラマとしての奥行きは少し薄かったかもしれない。
この映画の価値は「個人が勝つ話ではない」というところにある。どれだけ戦っても勝てないかもしれない。それでも、戦わずに従うことは、生きている意味を失うことだ。
だから、彼女は最後まで戦い続けた。それが、この映画の持つ最大のメッセージなのだと思う。
国家を辱めているのはだ〜れ?
世界柔道選手権に出場したイラン人選手が、自国の柔道協会や国の最高指導者から棄権する様脅迫を受ける話。
ジョージアで行われている世界選手権において、世界的には無名なイラン人選手レイラ・ホセイニが勝ち進むと、占領政権であるイスラエルの選手との試合を禁じる国の政策を受けた自国柔道協会から、ケガを理由に棄権しろという電話がコーチに掛かってきて巻き起こっていく。
流石に柔道そのものの迫力を伝えるのは難しいけれど、カメラワークで上手くみせていたし、独り抗うレイラがどうなっていくのかというヒリヒリ感はしっかり伝わってきたし、最初はチャラく感じたダンナのイケメンっぷりも素晴らしい。
モデルの話しの裏でのやり取りがどうだったかとか、実際にはどこまでの力が働くのかは知らないけれど、イランでは上映不可というのはまあそうだろうねという感じの切り込みっぷりで、とても面白かった。
期待度◎鑑賞後の満足度◎ 我々日本人にとっては四角い畳の上は一旦上がると勝負以外何の制約や抑圧や邪魔が入らない神聖な場所の筈なのに政治が侵食する世界の現実。そういう意味でも皮肉な題名だ。
①もう一つの『聖なるイチジクの種』。
②本作を鑑賞する直前に思ったのだが、世界には検閲や政治的理由や宗教的理由で自国製の映画又は自国を扱った映画を観れない国が沢山ある。その点日本は性的な表現や暴力的な表現の制約があるとは言え基本的にはどんな国の映画でも公開されれば観れる映画ファンにとっては有難い国だと思う(とはいえ、最近は邦画>洋画みたいで『大和魂(本当の意味でー“大和魂”の本当の意味を知っている日本人って殆んどいないと思うんどけど)』)からすればやや愁えてます。
だから、そういう幸運にも日本で観れる映画には真摯に向き合わねばならないと思う。
②日本語の題名だから日本人としては観ずばなるまい、と思って観たわけだが、初めからスポコンものと期待して観たわけではないけれども、(浦沢直樹の『YAWARA! 』ちゃんも好きだけど)ここまでポリティカルなドラマとは思わなかった。
ただ、単にポリティカルな内容だから注目作というだけでなく映画としても良く出来ている。
③
作られたことの意義は大きい
スポーツの世界に政治が持ち込まれてはいけない。ところが現実にはスポーツと政治が絡むことはよくあること。イスラエルの選手と対戦させないために、イランが自国の柔道選手に棄権させようとした事件が実際にあったことが驚きだ。なぜイスラエル選手との対戦を拒むのか、それはイスラエルを国家として認めていないから。そんな国の選手と自国の選手を握手させるわけにはいかない。そんな理屈らしい。
実際にあった出来事を題材にしているから、臨場感や緊迫感はある。棄権を拒んだ場合の措置もリアルだった。メンツのためなら自国民の命なんて何とも思っていない感じが怖い。
それでも、今一つ乗り切れなかったのは残念だった。柔道シーンの迫力が若干不足していたし、話の盛り上がりももう少し欲しかった。実話ベースの話の限界ではある。ただ、この映画を作り上映にこぎつけるまでの苦労は相当なものだったんだろうと想像する。作られたことの意義をかみしめるのが正解なのかもしれない。
必見
チャラそうな夫
柔道の技などと国旗、大会名以外は日本や日本人が出てこなかったのは違和感あるし、監督のガンバリの心変わりが突然すぎて、どうにも消化できませんでした。エピローグも全く必要なかったように思います。
イランとイスラエルの監督の共同作品だそうですが、イランへの攻撃プロパガンダ映画とも言えるような内容でした。
なのに、とても印象に残る映画でした。というか、私にとっては、今年見た中では屈指の作品の1つです。白黒の画面で常に緊張感をもって見ることができました。
個人の評価って、結局、好き嫌いで決めるしかなく、逆に、だから面白いのかなとも思いました。
追記
2回目の鑑賞。なぜか最初から涙目で見てしまった。
監督の突然の心変わりや蛇足としか思えない最後のシーンなど、修正して欲しい所はあるし、相変わらずプロパガンダ色は強いなあとは思いつつ・・・、それでも、やっぱりよかった。
今回、改めて強く感じたのは、チャラそうな夫の素晴らしさ。自分なら、日和って、「次のチャンスを活かそう」くらい言ったかもしれない。心底カッコいい人だった。
それから一見冷たそうな事務員さんもよかった。
今回気づいたことは、本当の主役はガンバリだったということ。
最後の蛇足をカットして、電話のシーンで終わってくれていたらなあ・・・。
あと、何故「畳」?
アラブ世界
柔道経験者のため気になった一本。アラブ人の自由が制限された姿を描いている。国の最高指導者や大統領からの強烈な指示と強硬な姿勢に緊張させられる。鑑賞後も搭乗者の今後がどのように続いていくのか考えてしまう。モノクロは演出的に良いが、自分の老眼はしょぼしょぼになってしまい非常にハードでした。
タタミ日記
珍しく仕事が定時に終わったー!!
と、土曜8時、こっから1時間で映画館に辿り着けばレイトショーに間に合う!とマイチャリンコ全速力にチケット購入。
よし!200席のシアターに一番乗り、と思いきや2番入場が来ない。
わ!!俺一人??
誰も居ないシアターに巨大スクリーンを独り占めですよ。
ど真ん中の良い席分取り、映画マナーも知らね、って感じに、声出し一人応援上映会ですよ。
まずオープニングに拍手喝采しつつ、ホセイニの勝利に拳上げ、よっしゃー!!と叫び、政府の圧力にクソがぁ!!と怒り、あの衝撃的なラストカットにうおお!カッコいいーー!!と大声にフル満喫よw
イランの映画にタタミって何じゃそらタイトル、そりゃ一部の映画ファンしか見ないわなw
でも良かった、だから良かった、こんな映画体験初めてだし超サイコーだったよ。
プロジェクター持ってるヤツの部屋超えてんだぜ、しかもレイトだから1300円入場だ。
一生心に残るな。サイコー!!!
TAWARA!
この映画のアンバサダーが谷亮子だったら絶対見なかったですけど、
どこの媒体にもしゃしゃり出てなかったので、安心して鑑賞。
2019年の日本武道館での世界柔道選手権で実際に起こった事件がベース。
という割に、日本人はおろか、アジア人皆無な世界選手権…in ジョージア。
会場も、畳の上だけ照明が当たって、あとは真っ暗。
人がいっぱいいるような音足して、ごまかしてます。
お金なかったんだなあ〜…というのが伝わって来ます。
敵対してるイスラエルとの直接対戦を避けるために
あらゆる妨害をなぜ、当日になって遠隔指示。
事前に想定される事なら、ちゃんと現場と連携しとけよ。
こんなのありえないと思ったら、まさかの実話ベースと鑑賞後に知りました。
サスペンスフルな展開はあったし、退屈もしないけど、
政府批判って、割と簡単に点数稼げる印象。
予定調和を逸脱することによって際立つものがある
組織のためという「大義名分」のために、個人が理不尽な要求を強いられるといったことは、どこの国の、誰にでも起こり得ることで、そういう意味では、スポーツに対する政治の介入という問題にとどまらない普遍性のある物語だと思う。
そこで、どうしても頭に浮かぶのが、自分が同じ立場に立たされたなら、どうするだろうという「問い」である。
権力に屈することなく、自らの尊厳をかけて戦い抜くということが「理想」であることは間違いないのだが、アスリートとしての将来の道が断たれたり、自分だけでなく、家族や関係者の命が危険に晒されるという「現実」を考えたならば、やはり、国の方針に従わざるを得ないのではないかとも思えてしまう。
その点、主人公が、どうして、あそこまで頑なに「棄権」することを拒否したのか、その理由が今一つ分からなかったところには、釈然としないものが残った。祖国に残した夫の励ましが、その大きな要因であることは間違いないだろうが、拘束された父親を犠牲にしてまで勝負にこだわる理由が、もう少し明確に示されていたならば、彼女の決断にも説得力が生まれたように思うのである。
物語の流れから、彼女が決勝まで勝ち進んで、イスラエルの選手と対戦するものとばかり思い込んでいたのだが、よもやの敗退という展開には、本当に驚かされた。おまけに、イスラエルの選手も決勝に進めなかったということが分かり、それなら、一体、何のための国からの圧力で、何のための抵抗だったのかという疑問が湧き上がってきて、やり切れない気持ちになる。
そこには、スポーツを政治の道具にしようとすることの不条理さや虚しさだけでなく、神のみぞ知る勝負の世界に、人間が介入することの滑稽さまで感じ取ることができて、深みのある物語を紡ぎ出すことに成功していると思う。これが、もし、主人公が決勝戦でイスラエルに勝利するみたいな予定調和の展開になっていたら、「ロッキー」のような「スポーツ感動物語」になっていたのだろう。
ところで、冒頭で、主人公が、イスラエルの選手と個人的に親しい間柄だということが示されるのだが、それだったら、彼女たちは、今までに何回も対戦しているのではないかという疑問が生じるし、そもそも、こんな方針を掲げていたら、イランは、イスラエルと対戦する可能性のあるスポーツの試合をすべてボイコットする必要があるのではないかとも思えてしまう。
イランが、イスラエルを国家として認めたくないという事情は理解できるものの、この辺りの経緯については、もう少し分かりやす説明してもらいたかったと思う。
TATAMIというバトルフィールド
実話ベースなんだ。TATAMIという日本人の抱く幸せそうなくつろぎの語感からはまったく想像できないリアルな命懸けの闘争劇(しかもモノクロでスタンダードサイズ)が展開する。しかも女子柔道の大会中。
日本語タイトルがTATAMIでよかったかどうかはあるけど、ここではまさに戦いの《スクエア》みたいなイメージでTATAMIという名は使われて、ほぼその上で勝ち進んでいくトーナメントに合わせてイランの国からの理不尽な要望に対して、このまま国のいいなりになって生きるか、そこから踏み出すのか、を1日の試合進行の中に描き出していく。
モノクロスタンダードだから照明が落ちていわゆる観客の群衆がいないのもお金がないからなのか、そもそもスタイリッシュに、という狙いなのかわからないけどそれよよかった。逆にフラッシュと大会会場の照明が印象的で、スタンダード画面に収まりやすい主人公の顔が投げ技の時にカメラも選手にあわせてぐるっと周り、彼女の生きる証である柔道と、それを縛る祖国との間の微妙なバランスで過呼吸にもなっていくトーナメント。題材も構成も抜群にいいのだけど、個人的にはモノクロにした意味合いはさほどプラスには思えてない。もっとアグレッシブな映画にもなれたような気もする。
イスラエル出身監督とイラン出身監督による合作モノクロ映画
柔道に限らずスポーツ観戦にもスポーツニュースにも関心がないのにこの映画を見たのは、イラン、イスラエルという二つの国名を見つけたからだ。「聖なるイチジク」「ノーアザーカントリー」「セプテンバー 5」と、イラン、パレスチナ、イスラエルに関する映画を立て続けに見たので見ない訳にはいかないと思った。
映画の冒頭で世界柔道選手権(女子)の開催国の風景が映る。あれ?映画「ゴンドラ」のあのゴンドラが見えた!そうです!ジョージアが開催国。イランの女子柔道チームで金メダルを目指すレイラ。柔道着を着て髪はぴったりした黒いヒジャブで覆われている。祖国イランでは夫も小さい息子もきょうだいも友達もみんなが集まりテレビの前で応援している。たまにスマホで夫ナデルと会話するレイラ。イランチームのガンバリ監督はソウルオリンピックにも出場した女子柔道選手だ。レイラは順調に勝ち進む。が、ガンバリ監督のもとにイラン柔道協会・会長(男)から電話がかかる。レイラを棄権させろ。同じく勝ち進んでいるイスラエル選手と戦わせないためだ。決定はイラン政府、命令だ(イランはイスラエルを国家として認めていない。スポーツにおけるイスラエル・ボイコットは競泳、チェス、レスリングなど多くの国際競技大会で問題となっている)。言うことを聞かなければ、親や家族が拘束され拷問を受けることは監督もレイラもわかっている。監督はレイラに棄権するよう言うがレイラは聞かない。ジョージアにくる前から、レイラと夫はあらかじめ心と行動の準備をしていた。
後は是非、映画館でご覧になってください。フィクションですが、イランの男性柔道選手に実際に起こった事件がベースになっています。
「聖なるイチジク」でもそうだったように、家の中でテレビ観戦している女性達は男性が一緒でも全員スカーフ無し。ジョージアに来る前のレイラの回想シーン:夫のナデルと夜、クラブに行き、入るなりスカーフをかなぐり捨て二人で情熱的に楽しく踊る。スカーフのないレイラは若く美しく可愛らしい。
追記
レイラ役の俳優アリエンヌ・マンディはすべての柔道シーンで自ら演技し、実際のオリンピック選手と対戦しています。パンフレットがとても充実していて助かりました。
中東で戦争が無くならない理由
勧善懲悪で試合の描写も単調
タチの悪い勧善懲悪のアメリカ映画を観ているようだった。
今だにイラン悪という印象を植え付けたいプロパガンダ映画のようにも思えた。なぜイラン政府はイスラエルとの試合を拒むのか、また、外交官などが、国家の理不尽とも思える決定に従順に遂行するのかを納得させる理由が演出としてなく、イラン映画の「別離」を観たことのあるものとして、悪役とされた側の、まるで北朝鮮のような洗脳された工作員や外交官の無情で理性のない拉致・脅迫に違和感を抱いた。試合の演出はスポーツ映画より迫力がなく、政治問題としては一方的な見方しかない。スカーフを外すことがまるで国家的束縛からの解放、自由を尊重する意味としての演出が主張しすぎていて呆れた(イスラム教自体を否定しているのか?)。こんな映画が賞をとれるなんて、審査員はアメリカかどこかから資金提供されているのか?この映画を評価する方は今までどのような政治テーマの映画を見てきたのだろうかと疑うほど稚拙な映画だった。
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