「国家権力という反則技に対し、彼女たちは畳上で聖なる闘い」TATAMI 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
国家権力という反則技に対し、彼女たちは畳上で聖なる闘い
奇しくも続けてイラン政府の国家権力と圧力を批判した作品を。
『聖なるイチジクの種』は実際の不審死事件から成る殺伐とした国内の情勢や家族の崩壊を恐ろしく描いたのに対し、こちらは実話ベースでスポーツ映画として。
どちらも訴えは痛烈だが、見易さ分かり易さではこちらの方に一本!
ジョージアで開かれている女子柔道の世界選手権。
イラン代表のレイラは監督のマルヤムと二人三脚で順調に勝ち進み、金メダルも見えてきた。決勝で闘うであろう相手は、旧知のイスラエル代表。
決勝前に、イラン政府から連絡が。イスラエルとの試合を避けるべく、棄権しろと…。
無論マルヤムは拒否する。金メダルを取れば個人や国民や国の為になる。
が、当局は有無を言わせない。従え。さもないと、自分や家族がどんな目に遭うか分かってるんだろうな?
個人の意見など聞く耳持たない強要にゾッとする…。
やむなく従わざるを得ないマルヤム。事情は伏せてレイラに棄権してと伝えるが…。
勿論レイラは納得出来ない。理由を聞いてもマルヤムは答えを濁す。
無視して次の試合へ。不満が怒りの力になったのか、勝ち上がり、また次の試合へ進む。
試合を見て当局からマルヤムに怒りの連絡。説得しても聞かないと言うマルヤムを無能呼ばわり。
当局は強行に。会場に“犬”を派遣。2人の家族にも圧力。
家族から非難轟々。愚か者、恥を知れ。
国際大会に出場したら称えられる筈が、下らぬ理由で責められるなんて…。見ていて痛ましい。
レイラも事情を察する。それでも金メダルを目指し、試合に出場。
が、動揺や影響は隠せない。これまでの奮闘から一転、大事な準決勝で苦戦を強いられ…。
行政や一個人だけではなく、スポーツの場にまで介入してくるとは…。
レイラは準決勝で負けてしまう。本来なら金メダルを目指せたのに…。それを閉ざしたのは誰(何)だ?
試合終わってからマルヤムに当局が迫る。マルヤムは逃げる。
試合後の大事と治癒で入院中のレイラ。彼女にも当局が迫るのは必須。
マルヤムはレイラの元を訪れ、ある提案。国を脱出する。
究極の選択。国に留まり服従し厳しい処遇を待つか、国を捨てもう家族には会えぬが個人の自由や尊厳を取るか…?
2人が選んだのは…。
残したメッセージが沈痛。
その後レイラは難民チームとして再び国際大会の場に。その時の対戦国がイランという皮肉…。
アリエンヌ・マンディとザーラ・アミールの熱演。白黒映像による試合シーンは迫真。
ザーラ・アミールは監督も兼任。ガイ・ナッティブと共同監督。映画史上初めてイラン人監督とイスラエル人監督の共同作。
個人や文化では国と国は繋がれるというのに…。
作品に参加したイラン人は皆亡命。『聖なるイチジクの種』同様、作品はイランでは上映禁止。
日本発祥の柔道。
畳の上で行われる試合は神聖にして正々堂々。
そこに国同士の事情や権力を持ち込むな!
スポーツマンシップ…いやそれ以前に、ヒューマンシップに反する。

