「小粒だが痺れる。モノクロームが技と運命の決断を際立たせる」TATAMI 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
小粒だが痺れる。モノクロームが技と運命の決断を際立たせる
小粒ではあるが痺れる映画だ。モノクロームで織りなされた映像が、柔道の国際大会ほぼ一か所に限定された舞台の息苦しさと緊張感に拍車をかける。まさかこの場所、このタイトルから、イラン代表の女性選手をめぐる政治サスペンスが勃発するなんて誰が想像しただろうか。助けてくれる者なんて側にはいない。それどころか工作員のような連中まで控室まで易々と入ってくる。そんな状況に主人公がたった一人で抱え込む葛藤。その感情を全て投げ打つかのような畳上での気迫。「一本!」の声が響く時の沸き立つ高揚。余計な色を削ぎ落としているがゆえに、彼女が下す決断の数々が際立つ。その集積の上に彼女の命運とアイデンティティが築かれていくのがわかる。そして繰り返される歴史の鎖を象徴するかのような専属コーチの葛藤も本作のもう一つの魂。同役を演じ共同監督を兼任したザーラ・アミールの実人生が、本作に言い知れぬ力強さとリアリティをもたらしている。
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