劇場公開日 2025年2月28日

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「スポーツ・格闘技としての面白さと、国家からの抑圧に抗う人々を描く社会派サスペンスの意義を両立させた傑作」TATAMI 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 スポーツ・格闘技としての面白さと、国家からの抑圧に抗う人々を描く社会派サスペンスの意義を両立させた傑作

2025年2月25日
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鑑賞方法:試写会

悲しい

興奮

日本発祥の柔道を題材にワールドクラスの傑作映画をイスラエルとイラン(系)が中心の製作・出演陣が作ってくれたことに、率直な感謝と軽い嫉妬(なんで邦画でできなかったんだろうという)が入り混じった思いを抱いた。

映画の重点は柔道そのものよりも、国の抑圧的な干渉に抗う代表選手と板挟みになる監督に置かれる。とはいえ、トーナメント形式で進行する国際大会の一日をほぼリアルタイムで追う大筋の中で、数試合のシーンは臨場感と迫力に満ちている。撮影上のテクニックと工夫が駆使され、激しく組み合う2人をカメラが近い位置からぐるりと回って収めたり、抑え込まれてうつぶせの主人公の苦し気な表情を畳側から(!)とらえたりする。

主人公のイラン代表選手レイラ・ホセイニを演じたアリエンヌ・マンディは、チリ人とイラン人の親を持つ米国人女優。ドラマシリーズ「Lの世界」の主要キャストとして知られる。本格的にボクシングに取り組む姿が短編ドキュメンタリー「Arienne Mandi | Why I Fight」(2022)になるなど、格闘技の選手役に最適なキャスティングだったようだ。

企画の始まりはイスラエルのガイ・ナッティブ監督からだったが、「聖地には蜘蛛が巣を張る」の女優ザーラ・アミールにまずガンバリ監督役をオファーし、キャスティングと脚本への彼女の協力を経て、共同監督としてのコラボに至ったという。「聖地には~」で書いたレビューから長めの引用になるが、「ザーラ・アミール・エブラヒミはイラン出身の女優で、2000年代に同国のテレビドラマなどで人気を博するも、06年に元交際相手と彼女の性行為を撮影したものだとされる動画が流出してスキャンダルに。エブラヒミに非がない上に動画の真偽も定かでないにも関わらず当局から収監されるリスクが生じ、08年にイランを脱出してパリに移住(後にフランスの市民権を得ている)」。体制と男性優位社会から抑圧され亡命したザーラ・アミールの経験が、本作にも確かに反映されている。

スタンダードサイズ(1.33:1)のモノクロ映像は余計な情報を排除し、試合中の選手らの動き、人物らの表情に観客が集中するのに大いに役立つ。さらに、国の関係者らから棄権するよう命じられ追い詰められるレイラとガンバリの閉塞感も効果的に表現している。

人権、とくに女性の人権を尊重せず抑圧するイランの体制を批判する映画の日本公開が、2週間前の「聖なるイチジクの種」、そして本作「TATAMI」と相次ぐ。国の強大な力に、表現というソフトパワーで立ち向かうイラン(系)の人々の映画に、「柔よく剛を制す」の精神を見る思いがする。

高森郁哉
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