劇場公開日 2024年5月31日

  • 予告編を見る

「この世を生きる僕たちへ伝えてくれていること」わたくしどもは。 羊さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0この世を生きる僕たちへ伝えてくれていること

2024年6月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

知的



それは『執着を手放せ』だと僕は思う。

キイさんという掃除のおばさんと
その施設の館長の会話でそれがわかった。

キイさんはこの生活にようやく慣れてきたのに
49日目だからってどうしてクビにするの?
私はここに居たいのに…と訴える。
館長はダメなものはダメなんだよと諭し
「あなたにとって決して悪い所ではないよ」と
光のほうへ導く。(執着からの解放)
とても神々しくて涙が出た。

執着をひとつずつ手放しながら生きていけば
光が見える、そして見失うことはない。

何かに対する執着によって
自分で自分の首に手をかけて絞めていないか?と
考えさせてくれるようだった。



ミドリはこの世界で
「ずっと」があると思いながらアオを愛してる。
アオは「ずっと」がないことを知っている。

アオはこの施設の警備員をしていて
ここにいる人は一定の期間を過ぎればいなくなって
そしてもう戻ってこない事を知っている。

「わたくしたちはどこから来て
どこへ行くのでしょう…」ミドリが問う。

「過去のことはもうどうでも良いんです。
今はあなたがミドリさんで私がアオ。
ただそれだけ。」

アオには執着なんてものはなく
ただ「今」を見つめ、「今」を愛している。

49日が経ったあと、ミドリは行ってしまうから。
行ってしまうのだろうから。

過去でもなく、未来でもなく、「今」が大事。



館長やアオがあの世に行けないのはなぜか?
朧げに「自死」が原因…?と思っている。

アオは罪を償うには…と考えている。
自死をしようと首に縄をかけた少年に
「こちらに来てはいけないよ」と止めていた。
自分と同じような人を増やしたくないから。

アオと館長はあの場所から離れられない。
人が存在する限り、見守り、送り出すしかない。

あの少年も、まもなくそうなるのだろうか。
彼は自死をしたことで自由を手にしていた。
罪の意識はおそらく抱かないだろう。



小松菜奈さんと松田龍平さんが醸し出す
この世の者でもあの世の者でもない空気に
僕も束の間そういう存在として101分を生きた。

直接的な描写ではない初夜を匂わせる場面。
コロナ禍の撮影だったらしいので断念して
ああいう表現になったのかもしれないが
あれで正解だったと思う…ドキドキした。

狭間の人生を振り返って満足しているのだろう
49日前夜の幸せそうなキイさんの笑顔、
当日の館長と涙を浮かべて対話する姿、
光へと向かう美しさ…
大竹しのぶさんの演技に魅了されました。

そして…田中泯さんは重鎮ですね。
作品に重みと深みがうまれていました。
「天へと向かう」の体現がすごかった…
(PERFECT DAYSの時も目が釘付けでした)



エンドロールで流れた曲がとても良かったです。
僕の琴線に触れまくりで涙腺崩壊でした。

僕はこの映画大好きです、また観たい。

羊