「この世を生きる僕たちへ伝えてくれていること」わたくしどもは。 羊さんの映画レビュー(感想・評価)
この世を生きる僕たちへ伝えてくれていること
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それは『執着を手放せ』だと僕は思う。
キイさんという掃除のおばさんと
その施設の館長の会話でそれがわかった。
キイさんはこの生活にようやく慣れてきたのに
49日目だからってどうしてクビにするの?
私はここに居たいのに…と訴える。
館長はダメなものはダメなんだよと諭し
「あなたにとって決して悪い所ではないよ」と
光のほうへ導く。(執着からの解放)
とても神々しくて涙が出た。
執着をひとつずつ手放しながら生きていけば
光が見える、そして見失うことはない。
何かに対する執着によって
自分で自分の首に手をかけて絞めていないか?と
考えさせてくれるようだった。
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ミドリはこの世界で
「ずっと」があると思いながらアオを愛してる。
アオは「ずっと」がないことを知っている。
アオはこの施設の警備員をしていて
ここにいる人は一定の期間を過ぎればいなくなって
そしてもう戻ってこない事を知っている。
「わたくしたちはどこから来て
どこへ行くのでしょう…」ミドリが問う。
「過去のことはもうどうでも良いんです。
今はあなたがミドリさんで私がアオ。
ただそれだけ。」
アオには執着なんてものはなく
ただ「今」を見つめ、「今」を愛している。
49日が経ったあと、ミドリは行ってしまうから。
行ってしまうのだろうから。
過去でもなく、未来でもなく、「今」が大事。
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館長やアオがあの世に行けないのはなぜか?
朧げに「自死」が原因…?と思っている。
アオは罪を償うには…と考えている。
自死をしようと首に縄をかけた少年に
「こちらに来てはいけないよ」と止めていた。
自分と同じような人を増やしたくないから。
アオと館長はあの場所から離れられない。
人が存在する限り、見守り、送り出すしかない。
あの少年も、まもなくそうなるのだろうか。
彼は自死をしたことで自由を手にしていた。
罪の意識はおそらく抱かないだろう。
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小松菜奈さんと松田龍平さんが醸し出す
この世の者でもあの世の者でもない空気に
僕も束の間そういう存在として101分を生きた。
直接的な描写ではない初夜を匂わせる場面。
コロナ禍の撮影だったらしいので断念して
ああいう表現になったのかもしれないが
あれで正解だったと思う…ドキドキした。
狭間の人生を振り返って満足しているのだろう
49日前夜の幸せそうなキイさんの笑顔、
当日の館長と涙を浮かべて対話する姿、
光へと向かう美しさ…
大竹しのぶさんの演技に魅了されました。
そして…田中泯さんは重鎮ですね。
作品に重みと深みがうまれていました。
「天へと向かう」の体現がすごかった…
(PERFECT DAYSの時も目が釘付けでした)
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エンドロールで流れた曲がとても良かったです。
僕の琴線に触れまくりで涙腺崩壊でした。
僕はこの映画大好きです、また観たい。