劇場公開日 2024年3月8日

「秀逸な中国発原作と、手練れの脚色、演出。日中の歴史が混ざり合う沖縄を舞台にした点も巧い」ゴールド・ボーイ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5秀逸な中国発原作と、手練れの脚色、演出。日中の歴史が混ざり合う沖縄を舞台にした点も巧い

2024年3月17日
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鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

題名と概要を最初に見た時、スティーヴン・キングの小説「ゴールデンボーイ」を思い出した。資料によると脚本の港岳彦のアイデアで、キングへの敬意を込めて「ゴールド・ボーイ」としたのだそう。両作品は実際、世代は異なるがそれぞれ“悪の資質”を併せ持つ主要人物たちが邂逅し、年少者が年長者の弱みにつけこんで自らの要求を通していく、という序盤の筋が共通する。

それにしても、嫉妬してしまうくらいによくできた、先の読めないストーリーだ。1986年浙江省(せっこうしょう)生まれの紫金陳(ズー・ジンチェン)が2014年に発表した小説が原作で、2020年にはドラマ化された(現在日本でも複数の配信サービスで視聴可能)。

殺人という行為についての、ある種の突き放した感じというか、ドライなセンスが、日本人の肌感覚とは異なるような気もする。とはいえ、明・清時代の中国の影響が大きかった琉球王国から日本の県になった(さらには戦後の米占領下の時代も経験した)、歴史的・文化的レイヤーが複雑に混ざり合う沖縄を舞台にしたことで、日本人の登場人物たちが関わる物語なのにどこか異国の出来事のような、特別な映画世界が生まれたように感じる。

二枚目俳優にはサイコパスの殺人者がよく似合う。甘いマスクの明るい岡田将生が裏の顔に豹変する瞬間に震撼した。「悪の教典」の伊藤英明、「脳男」の生田斗真に匹敵するイケメンサイコパスではなかろうか。

怪獣映画だけでなく、子役や美少女アイドルの演出でも評価の高い金子修介監督は、羽村仁成、星乃あんな、前出燿志人の自然な演技を引き出しただけでなく、変化していく3人の関係性も効果的に描いてみせた。映画が陰惨にならず爽やかさと切なさを残しているのも、青春物語としての側面が活きているからだろう。特に星乃が演じた夏月の純粋さと、ある場面での震える手に、胸が締めつけられたことがずっと忘れられない。

高森 郁哉