「我々の指に宿るものは、いずれ世界を変えてゆく」JAWAN ジャワーン Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
我々の指に宿るものは、いずれ世界を変えてゆく
2024.12.4 字幕 イオンシネマ京都桂川
2023年のインド映画(171分、PG12)
ムンバイを舞台に繰り広げられる政治犯と警察の対決を描いたアクション映画
監督はアトリー
脚本はアトリー&S・ラマナギリヴァサン
原題の『Jawan』は「兵士」という意味
物語の舞台は、インドの国境付近の村
村の少年ジュジュ(アビラル・リンボー、成人期:Sangay Tsheltrim)は、川に流れ着いた男(シャー・ルク・カーン)を発見する
村人たちは男を手厚く看護し、神に祈りを捧げた
だが、その矢先、中国兵による侵攻が起こり、村人たちは惨殺されてしまう
祈祷師は神に祈り、それが通じたのか、瀕死の男は復活を遂げ、中国兵を一人残らず殲滅した
男は救世主と呼ばれ崇められたが、自分のことを全て忘れていた
それから30年後、ムンバイのメトロではある計画が密やかに行われていた
渋滞のためにその列車に乗ることになったアーリヤ(Ashelsha Thakur)だったが、その車両は間も無くハイジャックされてしまう
武装した女性数人が取り囲む中、一人の警官が事の鎮圧にあたろうとする
だが、そこに居合わせた老人は警官を制圧し、彼こそが首謀者(シャー・ルク・カーン)であることがわかった
男はチーフと呼ばれていて、声明を出して、政府との交渉に入った
男の要求は「ある実業家から金を融通してもらい4000億ルピーを払え」というもの
矢面の立たされたのは農業大臣のムラハ・ダース(Naresh Gosain)で、男は年間に1万人以上の農民が借金苦で命を絶っているという
そして、その4000億を借金を抱えている農民に配り、その負債を帳消しにしてしまうのである
事件の交渉と捜査にはナルマダ(ナヤンターラー)が抜擢され、部下のイラニ(スニル・グローバー)とともに捜査を開始する
ナルマダには娘スージー(シーザ・サロージ・メータ)がいて、彼女は父親探しをしていた
そして彼女は、ムンバイの刑務所の所長アーザードに好感触を持ち始めていく
だが、その男こそが一連のテロの首謀者であり、そんなことを知らぬまま、ナルマダは娘のためを思って、アーザードと結婚することになったのである
映画は、30年前の男と現在のアーザードを一人二役でこなしている映画で、この二人が父と息子という関係となっている
アーザードは女性刑務所に服役していた母アイシュワリヤ(ディーピカ・パドゥコーン)の息子で、当時の刑務所長カーヴェリ(リディ・ドグラ)が養母となって育ててきた
アーザードは刑務所改革を行い、その中から6人を選抜し、チームを編成してテロに及んでいたのである
3人の息子を戦争で亡くした「母」ラクシュミー(プリヤマニ)、自殺した農夫の娘カルキ(レハール・カーン)、医療事故の汚名を着せられた医師イーラム(サニャ・マルホートラ)、変装が得意のアーティスト・イスクラ(ギリヤ・オーク)、場を盛り上げる楽曲を提供する音楽家のジャンヴィ(アーリヤ・クレイシ)、ハッカー&メカニック担当のヘラナ(サンジータ・タチャリヤ)
この6人はアーザードの母親的な存在であり、それぞれが不当な罪で投獄されていたり、理不尽な所業ゆえに犯罪を犯した人ばかりだった
彼らには目的があって、いわゆる世直し的な意味合いがあった
そして、その行動は国民の支持を得ていくことになった
また、アーザードは父ヴィクラムの仇である武器商人のカリ(ビジェイ・セツパティ)に恨みを抱いていて、彼が政府とつるんで暗躍していることも知っていた
そこで、彼の一人娘であるアーリヤを人質に紛れ込ませることで、カリを表舞台に引き摺り出すことになったのである
映画は約3時間あるいつものインド映画で、踊るシーンも満載で、途中で監督も歌って踊っていたりする
女性陣が中心となっているので、いつものおっさんばかり登場するというものではなく、華やかな絵作りになっていた
映画のメッセージも万国共通のもので、腐敗した政治に対して、国民の指(インドでは電子投票になっている)には力があることを訴えている
5時間しか持たない蚊取り線香に熟考するのに、5年続く政治に無関心なのはなぜか
このメッセージが国民の間で浸透し、アーザードは英雄視されていくことになるのである
いずれにせよ、かなり登場人物の多い作品だが、末端以外はわかりやすいキャラ作りになっていて、そこまで混乱することはないと思う
国民のために動いているテロリストという構図になっていて、奪うお金も汚いお金なので国民の支持も得られている
4000億ルピーを実業家のために帳消しにするのに、農民からはきちんと取り立てるとか、富裕層優遇政策によって国民が割を食っている状況などが描かれていく
政府が10年経ってもできないことが、テロリズムによって5時間でできるという皮肉もあり、そう言った本気の政治を国民に死傷者がでない(カリの部下を除く)方策で行うのは徹底していた
このあたりの爽快感というものもあるので、3時間があっという間に過ぎていく
エンドロールでは、途中で登場するエージェント・ナーセク(サンジャイ・ダット)の次のお仕事も予告されているので、ある種のユニバースになっていくのかな、とおもった