劇場公開日 2023年11月18日

「フリーライターのドキュメンタリーとしても選挙映画としても、そして仕事映画としても面白さが凝縮した一作」NO 選挙,NO LIFE yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5フリーライターのドキュメンタリーとしても選挙映画としても、そして仕事映画としても面白さが凝縮した一作

2023年12月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

畠山理仁は各種メディアでの積極的な取材・執筆活動だけでなくSNSでの情報発信も積極的に行っているため、その活躍ぶりを知っている人も少なくないでしょう。

「コスパ、タイパ無視」とか「平均睡眠時間2時間」といったポスターの文言から、超人的な体力と情熱で切り込んでいく無頼派フリーライターを想像していたところ、映像に登場する畠山氏は物腰も話しぶりも穏やかで、時に仕事の仕方に感じている限界を素直に吐露するなど、良い意味で予測を裏切る人物像でした(ただしそれらの文言も決して誇張ではありません)。

映画は大きく二部に分かれ、2022年参院選挙・東京選挙区での取材風景を取り上げた前半部では、まず日本にこれほど多くの小規模(泡沫)政党が存在しているのかと驚いてしまいます。登場する候補者も強烈な個性の持ち主が少なくないんだけど、そんな候補者たちを野次馬的におもしろおかしく取り上げているのかといえば決してそうではなく、自らの境遇や人間性と重ね合わせてその政治的意図を真剣に汲み取ろうとする畠山氏の姿勢が印象的です。

ライターとしての自らの限界を自覚しつつ向かった沖縄知事選取材が後半部となるんだけど、沖縄独特の要素も加わった選挙戦の面白さに加えて、選挙後の候補者の一人を捉えた映像が非常に印象的で、畠山氏の取材に対する使命感が素直に理解できます。

そして沖縄の経験を踏まえた後、前半部に登場した候補者が再登場するのですが、彼の姿にも(宣伝にならないギリギリの線で)得も言われぬ感慨をもたらします。

選挙ドキュメンタリー映画としても、資料映像の観点からみても優れた作品であることは間違いありませんが、観終わった後に、社会に生きる人それぞれが取り組んでいる「仕事」に対して、ほんの少しでも前向きな気持ちになれる、「仕事映画」的な側面も備えた作品でした。年末年始に気分が上向きになる作品を探しているなら、まずこれ。

yui