劇場公開日 2023年12月1日

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「心の目で見ることの大切さ」隣人X 疑惑の彼女 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0心の目で見ることの大切さ

2023年12月4日
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泣ける

難しい

幸せ

予告の怪しげな雰囲気に興味を惹かれて鑑賞してきました。期待していたSF展開ではなかったですが、心揺さぶられる話に引き込まれ、後味のよい作品でした。

ストーリーは、惑星難民Xを受け入れることになり、人間と区別がつかないXが生活に入り込むことに動揺する日本で、週刊誌記者・笹憲太郎が、X疑惑のかかる柏木良子を追跡し、彼女との距離を少しずつ縮めていくことに成功するが、いつしか心から惹かれるようになり、記者としての立場と彼女への思いの板挟みの中で、ある真実にたどりつき、本当に大切なものに気づいていくというもの。

惑星難民XというSF設定は、単なる舞台装置にすぎず、その謎を解き明かすと見せかけて、本当に描きたいのは“差別や偏見を捨てて心の目で相手を見ることの大切さ”です。そこで、一見荒唐無稽とも思えるXの存在に現実感を持たせるために、対比のように配置した台湾人女性の存在が光ります。これにより、私たちが外国人に接する態度は、異星人に対するものと本質的に同じであり、それを受ける側に悲痛な思いを抱かせていることに気づかされます。一方で、彼女と同じコンビニで働く柏木が、心でつながろうと向き合う姿に、理想の関係が垣間見えます。

そんな本作のテーマに気づくと、もはやどうでもいいと思えてくるXの真相ですが、こちらも二転三転の展開をきちんと用意してXの存在を描き、最後まで飽きさせません。ていうか、むしろラストで描かれる手首のほくろで、ちょっと混乱してしまいました。結局、Xであるかどうかは本人さえ認識も証明もできないものであり、ことさらそれを取り上げることに意味はないと訴えているのでしょうか。

それにしても、自分が日本人であることを疑われたら、どうやって証明するのでしょうか。役所で戸籍抄本をもらうぐらいしか浮かびませんが、それでも証拠にはならないような気がします。なぜなら、マスゴミに一度狙われたら最後、それは瞬く間に拡散され、魔女裁判のごとき集団心理で徹底的に糾弾されるからです。本作は、そんなSNS全盛の現代の風潮にも一石投じています。終盤は何かと憤りを感じるシーンが多かったですが、ラストは前半のスクラッチやブックカフェの伏線を用いた、余韻の残る美しいシーンで、涙を禁じ得ませんでした。

前週公開の「翔んで埼玉」に引き続き、本作でも重要なロケ地となった滋賀。琵琶湖やメタセコイア並木が印象的でした。湖畔のカフェは実在するのでしょうか。あれば訪れてみたいです。あと、柏木の実家の背後にしっかり電波塔が存在していたのも、なにげによかったです。

主演は上野樹里さんと林遣都さんで、二人の持ち味が発揮された役回りですばらしい演技を披露しています。脇を固めるのは、ファン・ペイチャさん、野村周平さん、嶋田久作さん、原日出子さん、酒向芳さんら。中でも、最初の登場シーンではいつものイメージと違って認識できなかった酒向さんが、終盤でのお色直しも含めて、存在感を発揮しています。まさに名バイプレイヤーといった感じです。

おじゃる