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誠実なミュージシャンを描いたヒューマンドラマ 盛り上がる音楽映画を期待すると肩透かしになるので、要注意。ただし、数あるミュージシャン扱った映画で、ここまで音楽、ミュージシャンの人生に向き合ってる作品に記憶がない。ミニシアターでかかるような家族、恋人との葛藤を描くヒューマンドラマの主人公がたまたまブルース・スプリングスティーンだった、くらいの見方がよいのかもしれない。
ごちゃごちゃ言いましたが、最高の映画体験でした。
ブルース・スプリングスティーンと言っても、ウィーアーザワールドでイキってる人、くらいのイメージの方も多いかと思います。
この映画は、アルバム「ザ・リバー」成功後のブランクの内情を描いた作品です。「ハングリーハート」は佐野元春さんの「サムディ」に。映画でもドアタマでかかる「Born To Run」は、尾崎豊さんの「十七歳の地図」のパクリ元。日本でも多大な影響を与えたミュージシャンです。
普通のミュージシャンの映画でよくある、売れた後、孤独感にさいなまれて、お酒やドラッグに走らず、地元のレストランで働く子持ち女性とお付き合いするブルース。まじめか!
幼少期のフィードバックから、お父さんが大酒飲みで暴力を振るわれ、親子関係がうまくいってなかったことがわかる。このことは、後々、ブルースの人生の選択に暗い影を落とすことにつながる。
音楽映画のカタルシスは少なめですが、音楽ファンなら痺れる選曲、描写がたっぷり。カーステからドビーグレイのDrift Awayがさらっとかかったり、いいシーンでサムクックが歌うゴスペルをかけたり。ネブラスカの宅ロクで、多摩地区から世界に羽ばたくTEACのミキサー使ってる!とか。
劇中映画で、「バッドランズ」出てきますので、ご覧になった方はグッとくると思います。プレデターじゃなくてチャーリーシーンのおやじの方のやつね。
ブルースが曲作りにこの映画をモチーフにする。最初に三人称で書いてた歌詞を一人称に書き換える。役者の世界で役落としという言葉がある。これは演じた役に人格を支配されないために、終演後、人それぞれの方法でリフレッシュすることを言う。ブルースがこの切り替えがうまくできなかったことを匂わせる。
全曲、自分で歌うジェレミーアレンホワイトも素晴らしいのですが、ライブ中の音楽としてだけじゃなく、その音源がそのまま劇伴になってるのが凄い。もう一人のジェレミーことストロングの方は、トランプの映画でも悪徳弁護士のメンターを演じてて、こっちでは優しいマネージャーとして全然違うメンターなので面白い。
ちなみにマネージャーがブルースが落ち込んでるとき「頑張れ」って言う。これ、鬱病の人には使っちゃだめなキラーワードなので知らない方は覚えておいた方がいいです。映画的にわざとやろ?と思いました。
この映画は、精神疾患が遺伝するということも描いてます。これはもちろん、統計データの話であくまで、性格が似るってことなんですが、子どもの立場だと悩んで当然かと思います。かなり踏み込んだ描写というか大きなテーマとして扱われており、評価します。