コラム:佐藤嘉風の観々楽々 - 第9回

2008年9月17日更新

佐藤嘉風の観々楽々

第9回:「ブロードウェイ♪ブロードウェイ/コーラスラインにかける夢」
夢を持ち精一杯生きることの面白みや豊かさを味わって

本場ブロードウェイの舞台裏が見られる
本場ブロードウェイの舞台裏が見られる

ブロードウェイミュージカルの最高傑作でトニー賞を9部門受賞、さらに15年というロングラン記録を打ち立てた「コーラスライン」。その「コーラスライン」出演へのオーディションを記録した映画、「ブロードウェイ♪ブロードウェイ/コーラスラインにかける夢」が10月15日から公開されます。もともと「コーラスライン」というミュージカル自体が、ブロードウェイの舞台に立つことを夢見るダンサー達の悩みや葛藤を描いている裏舞台的な作品であるけれど、今回のこの映画はさらにその裏舞台を描いたものと言えるでしょう。監督は、ミュージカル「ヘアスプレー」で03年度のトニー賞を獲得したジェームズ・D・スターンと、ドキュメンタリー映画監督のアダム・デル・デオの2人。

3000人の中から19人を選出するという過酷なオーディションのなかには、3000通りの物語が存在し、それらはどれをとっても愛おしいストーリーであることが、この映画に登場する全てのダンサーや審査員の表情や言葉から伺えました。どのダンサーも壮絶な努力をしてきた人々であるから、その情熱は審査委員だけではなく、カメラの向こうにまでビシビシと伝わってきます。

面白いのは、序盤ではそのようなダンサーに対し、尊敬と感嘆の念しか気持ちの中に生じないのに、慣れてくると、まるで自分も審査委員になったような気分になり、ダンサーの演技に対しシビアになってきちゃって「この子は素晴らしいね~」とか「ん~、いまいちかな~」なんて随分偉そうな態度をとってしまわせる何かがあるところです。つまりそれほどまでに、リアルでのめり込ませるような情熱をダンサー達が発揮しているのでしょう。

ダンサー達の情熱に思わず引き込まれる
ダンサー達の情熱に思わず引き込まれる

とりわけ僕がのめり込んだ演技は、ポールというゲイの男性の役をジェイソン・タムというダンサーがオーディションにて演じるシーン。これには思わず涙が溢れました。オーディションでは、同じ役柄、同じ台詞を何人もの人が演じるのですが、演じる役者が変わると、役の人格がガラッと変わります。しかしながら、ジェイソン・タム演じる「ポール」だけは、他の人が演じる「ポール」とは別の次元で何かが違うように感じました。台本にある台詞が台詞ではなく、それがまるで初めて語られることのように真実味を帯びていて、生々しく聞こえるのです。これには感動させられました。

もう一つ、この作品を観ていて驚いたことは、ドキュメンタリーにも関わらず、収録されているダンサーや審査委員達の言葉の表現が非常に面白いこと。とっさの言葉とは思えないようなユーモアに富んだやりとりに、それぞれの秀才ぶりが伺えます。また、言葉だけではなく、彼らの表情や仕草に生命力が溢れている姿はとても魅力的。

ミュージカル好きな方にはもちろんですが、精神的にも少し元気をなくしている人達に、夢を持ち精一杯生きることの面白みや豊かさを味わってもらうためにも、是非観てほしい作品です。

筆者紹介

佐藤嘉風のコラム

佐藤嘉風(さとう・よしのり)。81年生まれ。神奈川県逗子市在住のシンガーソングライター。 地元、湘南を中心として積極的にライブ活動を展開中。07年4月ミニアルバム「SUGAR」、10月フルアルバム「流々淡々」リリース。 好きな映画は「スタンド・バイ・ミー」「ニライカナイからの手紙」など。公式サイトはこちら

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