コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第1回
2013年8月29日更新
元IMF専務理事のセックススキャンダルがG・ドパルデュー主演で映画化
フランスの政治家にしてスキャンダルにまみれた「乱交パーティ王」、ドミニク・ストロス=カーン(通称DSK)が、2011年5月にニューヨークで性的暴行、強姦未遂容疑で身柄を拘束された事件の顛末が、なんと映画化されることになった。この事件はそもそも、当時国際通貨基金(IMF)の専務理事だったDSKが、ニューヨークに仕事で出張中、滞在先のホテルで働いていた女性に性的暴行を加えたとして女性から訴えられたもの。同氏の手錠姿がメディアで一斉に報道されたものの、その後検察側が女性の証言の真意に疑問を抱き、約3カ月後に起訴は取り下げられて示談に至った。DSKは一貫して、レイプではなく「同意の上での性的接触だった」と主張。当時は2012年のフランス大統領選に向け、彼が社会党の有力候補だったこともあり、失脚させようとする反対勢力の陰謀ではないかといった憶測も飛び交っていた。だが、そもそも同氏の女遊びは政界では有名だったらしく、実際この事件を機に、過去にセクハラされたと訴える女性も複数出ている。
しかし晴れて自由の身となったDSKが反省、自粛するどころか、さらにまた事件を起こしたのには、さすがの支持派も口あんぐりだったのではないか。2012年2月、フランスのリールのホテルで売春婦の参加するパーティ開催の指示を出したとして、売春あっせんの容疑により事情聴取を受けたのである。一旦不起訴になったものの(その間、今年のカンヌ映画祭では新たな恋人を伴って堂々とレッドカーペットに上がっていた)、ついに今年の7月、「物的証拠がある」とする予審判事によって、他の12人の被告とともに判決裁へ移送されることが決定した。
というわけで前置きが長くなったが、そんなデリケートな状況だけに今回の映画化はかなり話題を呼んでいる。しかもメガホンを握るのは、手加減しないハードコアな映画で知られるアベル・フェラーラ。モラルを失った警官を描いてスキャンダルを巻き起こした「バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト」や、マドンナをしごき抜いた「スネーク・アイズ(1993)」などを撮った監督である。「Welcome to New York」と題された本作は、フランス制作であるものの、監督がアメリカ人であるだけに、どこか治外法権的な過激さが期待できそうだ。DSKに扮するのは、その恰幅の良さが似通ったジェラール・ドパルデュー。彼もまた、「ロシア移住」以来のフランス映画への復帰となり注目を浴びている。さらに事件当時ストロス=カーンを支えた妻(現在は離婚)で著名なジャーナリストのアンヌ・サンクレール役をジャクリーン・ビセットが演じる。
果たしてフェラーラの描くDSK像や事件に対するスタンスはどんなものになるのか、どれだけ過激な内容になるのかなど、興味は尽きない。フランスでの公開は2014年予定。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato