コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第5回

2015年11月18日更新

メイキング・オブ・クラウドファンディング
「クズとブスとゲス」
「クズとブスとゲス」

「この予算でどうやって?」と驚くほどの完成度

―バイオレンス映画は資金が集まりづらく、自由に作品を作る事がなかなか難しい現状があるのでしょうか。

市山:日本は暴力描写等の規制を気にし過ぎな傾向があるんですね。例えば、最近の映画だと塚本晋也監督の「野火」(15)って、あれはPG-12なんです。

大高:そうなんですね。

市山:監督は最初規制などを一切考えずに撮りたいままに撮っていたそうなのですが、映画館でかけるにあたって映倫に出したら、PG-12だったという。

大高:規制の話とは少しずれますが、「クズとブスとゲス」と「野火」には、実際の予算感と出来上がった物のクオリティの差に共通したものを感じました。低予算で作ったという感じが全くしなくて、「どうやってこの予算でこれだけの映画を作ったのだろう?」と驚きました。「インディーズでバイオレンス映画を撮りたい」という方はたくさんいるのですが、実際に観てみると自主規制をしている場合も多いなと。奥田監督の作品からはただならぬ覚悟というか、レベルの違いを感じたので凄いなと思いました。売れるから、評価されるから、という事では無く、撮りたいから撮るというこのプロジェクトは、クラウドファウンディングを運営している身としても嬉しかったです。

―監督がケガをされながら作ったという話を聞いたのですが、相当な苦労があったのでは無いでしょうか?

奥田監督:監督もするし自分も出ないといけないしで、撮影前はすごい気合い入ってて。撮影中も興奮して自分で頭割っちゃって、出血多量で死にかけたんですよね。医者にも「あと一時間遅かったら……」って言われました。でもCT入って、脳内出血してなかったんで続けたんですけど、現場の人間は「もう撮影終わったな」と思っていたらしいです。頭から血流してる人が現場戻って来るとは思わなかったみたいですけど、でっかいホチキス12針くらい止めて進めました。映画作りにかける気合いを感じてついて来て欲しいという気持ちもありましたけど、結構無茶言ってるのに皆が頑張ってくれたのは、この事もあったからかな、なんて思ったりします。

大高:役者として出ているだけでも、ハードなのにそれで監督をするって、観ているだけでも、どうやってやってんだろうって思いましたからね。

奥田監督:脚本書いて、この役を誰がやるんだって話になった時に、俺は「サミュエル・L・ジャクソンならやってくれる」って思ったけど(笑)、まあ俺がやる事になって15kg痩せて、鼻にピアスしたり見た目変えてって。俺赤面症なんで別人にならないと出来ないんですよ。自分の演技を客観的に観て技術は無いなって思ったんですけど、はみ出してるなとは思いました。とにかくはみ出したい。映画撮ってますけど、映画からもはみ出したい。映画という媒体を使ってるけど、これは映画じゃねーぞっていう。そういう意味で、はみ出してるなって思ったし、「こいつ生きるのつれーんだろうな」って感じはしました。

大高:もう芝居とかを超越している存在感でしたよね。

市山:そう、最初観てて監督だって分からなかったです。分からないというか知らないで観ていたので「この役者どこから連れて来たんだ?」と思って。

「クズとブスとゲス」
「クズとブスとゲス」

“表現したい事”が強烈にあるだけ

奥田監督:俺が脚本を書いてるので、この役は俺の分身みたいなもんかもしれないですね。監督するのも脚本書くのもあんまり別だとは思ってなくて、表現する、命を具現化するっていう作業には変わりなくて。高村光太郎だって彫刻やるじゃん、みたいな。表現したい事が強烈にあるからなんですよね。監督とか役者とかって何で枠を決めるんだろうって、なんだろう。ずっと反抗期が終わらないんですよね。好きな物でも周りに決められると嫌いになっちゃう。上手さとかどうでも良いんですよ。岡本太郎の「強烈な素人になれ」という言葉があって、俺も映画を作る時はこれまでの経験とか捨ててやろうって。技術とかじゃなくて、ヘタクソなりに本当に撮りたいものを作って。俺は毎回ゼロになって、前までの知識や経験をぶっ壊そうってやっているので。

市山:東京フィルメックスで上映する映画を選ぶ際、いろいろ観ていて、テクニックがある上手い作品が増えてきたなとは感じていますが、最終的に選ぶのは、人が惹き付けられるのは、技術的に上手いとかあまり関係無いですね。

奥田監督:俺は自分が上手くなったり、慣れてきたりしたら、終わりだと思っていて。でも幸運な事に、映画の事を考えたり脚本書いているうちに、頭の中ぐちゃぐちゃになってきて、現場に入る頃にはハイになってたりして、自分を追い込んで、命がけになれる。それだけは自分の才能です。
 「東京プレイボーイクラブ」の時は、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」でグランプリも取ってたし、天狗になってたっていうか、今自分であの映画を見直すと媚びてるなって思うんですよね。残尿感みたいな物もあって。その時ははしゃいでいたんだと思います。それと違って「クズとブスとゲス」は本当にやりたい事、ただの比喩だけでは無く死ぬ気で、血流して作ってるので。

―いよいよ「クズとブスとゲス」は、11月22日に「東京フィルメックス」にて上映されます。奥田監督が文字通り命をかけて作り上げた一本をお見逃し無く。

「クズとブスとゲス」
「クズとブスとゲス」

■第16回東京フィルメックス
11月21日(土)~29日(日)
東京・有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇、有楽町スバル座にて開催
http://filmex.net/2015/

第16回東京フィルメックス
第16回東京フィルメックス

筆者紹介

大高健志(おおたか・たけし)のコラム

大高健志(おおたか・たけし)。国内最大級のクラウドファンディングサイトMotionGalleryを運営。
外資系コンサルティングファーム入社後、東京藝術大学大学院に進学し映画を専攻。映画製作を学ぶ中で、クリエィティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年にMotionGalleryを立ち上げた。

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