コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第1回
2015年6月8日更新
日本の伝統文化である落語に縁のある映画が相次いで制作・公開されます。ひとつは、自堕落な落語家を主人公に据えた壱岐紀仁監督の「ねぼけ」、そして人気落語家、柳家喬太郎主演の吉野竜平監督の「スプリング、ハズ、カム」。二人の監督はなぜ、同時期に落語や落語家にフォーカスし、そしてなぜ、MotionGalleryでのクラウドファンディングを通じて映画を作ろうと思ったのか。両監督との鼎談のなかから探ります。
噺家を映画にキャスティングする事になったわけ
大高健志:お二人が同時期に、落語という題材を扱い、クラウドファンディングで製作資金を調達したっていうのはとてもおもしろい偶然だと思うのですが、そもそもなぜ落語を映画に取り入れようと思ったのでしょう?
壱岐紀仁:映画を作る前、僕は単純に落語が好きで観に行っていたのです。映画「ねぼけ」は、落語家の生き様を通じて人間模様を描く群像劇で、演技力がものをいう映画なので、キャスティングには悩みました。最終的には、北区つかこうへい劇団出身の友部康志さんと、映画の経験が豊富な村上真希さんに主演をお願いして、その師匠役として本物の噺家である入船亭扇遊師匠を起用しました。その点では吉野さんと落語という共通点はあるんですが、出発点が違うかもしれません。吉野さんは柳家喬太郎師匠をピンポイントで登用しましたね。
吉野:僕はそれまで、寄席にも行ったことがなかったくらいの人間です。落語との出会いというか、喬太郎さんとの出会いになるんですが、ラジオで喬太郎さんが出ている番組を偶然に聴いたんです。初めて聴いたのに、とにかくおもしろいおじさんだ!と思った。視聴者から送られてきたお題で三題噺を作る。生放送で、番組をやりながら2時間の間で一つの噺を作っていくんです。それがオチまで見事で。
壱岐紀仁(いきのりひと) 監督カメラマン/映像ディレクター。
国内外問わず数々の写真、映像コンペティションに出品。受賞歴多数。
※受賞歴
(株)アミューズ・アートジャム グランプリ受賞
TAGBOAT NextGeneration グランプリ受賞
Art Line DAEGU グランプリ受賞
TOKYO FRONT LINE 審査員特別賞
※出展歴
バンクーバー国際映画祭
釜山国際映画祭
SCOPE NewYork
越後妻有アートトリエンナーレ
映画「ねぼけ」の劇場公開に向け、海外映画祭や配給会社へプロモーションの真っ最中。
◆映画 「ねぼけ」クラウドファンディングページ
◆映画 「ねぼけ」クラウドファンディングページ(PA)
◆映画 「ねぼけ」予告編 [第一弾]
◆映画 「ねぼけ」公式Facebookページ
大高:ラジオが落語との出会いというのもおもしろいですね。
吉野竜平:検索してその人が柳家喬太郎だと知り、彼の動画をネットで何本も続けて観ました。さらに調べたら、映画への出演をされたことがなかった。もし、自分の映画で、あの年代のキャラクターが出て、芝居をやったら、とてもおもしろくなるはずだと思って。声を掛けてみたいな、って思っていたんです。
壱岐:吉野さんはキャスティングが上手いですよね。前の「あかぼし」もそうだけれども、普通のCMとか映画プロデューサーが“違和感”と感じるキャストを入れてくるんですよ。今回の喬太郎師匠もいわゆる職業俳優ではないですもの。でも演出も適切で、物語には全く違和感を感じさせず、惹きつけられる。物語にちゃんと馴染んでいる。
吉野:メインどころは役者じゃなくて良いんじゃないか、と考えているところはあります。その方特有の雰囲気や立ち居振る舞いが確立されていれば、その脇に、彼や彼女らをカバーする役者をきちんと配役する事で良い意味での化学反応が生まれてくると思っています。
もともと喬太郎さんは、演出家はこれを求めているのだ、というのを分析する力にすごい長けている方だと思います。今回の主人公は広島弁なんです。最初のうちは広島弁指導の人がいろいろアドバイスして、それを喬太郎さんが真似するようにやっていました。でも、このごろは指導の方の前にとりあえず喬太郎さんやってみてください、と言うようにした。その演技のあと、指導の人にアドバイスをいただくようにしたんですが、指導の方も「もうカンペキ」と。
1982年、神奈川県横須賀市出身。
法政大学社会学部在学中より映像制作を開始。
大学卒業後、日本映画学校へ進学。
長岡アジア映画祭・インディーズコンペ・グランプリ、京都国際学生映画祭・観客賞をはじめ受賞歴多数。初長編監督作品「あかぼし」では、低予算自主制作映画にも関わらず、人気声優・朴璐美が脚本に惚れ込み、実写映画初主演を務めたことで話題に。第25回東京国際映画祭・日本映画ある視点部門出品。 現在「スプリング、ハズ、カム」の製作中
◆映画 「スプリング、ハズ、カム」クラウドファンディングページ
大高:これまで配役されたキャストの方も同じ考え方に沿ってキャスティングされたのですか?
吉野:前作の「あかぼし」に主演し、今回も重要な役を演じていただく朴璐美さんもそうです。彼女もそれまで一緒に仕事したこともないし、ただネットで画像検索して見て、ああこの方、自分が考える役にぴったりな風貌をしているな、と思って。そこから、プロフィールを拝見して、舞台経歴が長かったので信用できると思ってお声をかけた。朴さんは声優の世界ではカリスマ的存在なんですけれども、その時点では、そのことも知らずに声を掛けていた。テレビを見ているときも、ぜんぜん演技と関係ない人を見ては、オーラや説得力に感心したりしていますね。わりとミュージシャンの方が多いですね。
壱岐:吉野さんは、映画に対してとても誠実だから、キャストをネタ的に使わない。イメージにはまって起用する。喬太郎師匠も、下手にやると過剰な演出に溺れそうだけど、でも、人の個性を上手に引き出し、ブレンドする技術がものすごい監督なんだなと思っています。
吉野:確かに、なにか話題性はあるけれども話題づくりではないキャスティングを心がけています。
壱岐:僕、扇遊師匠は、寄席に行ったときに今回の映画に出てもらおうと思ったんです。吉野さんと喬太郎師匠との出会いにも近いものがあって、扇遊師匠が高座に上がった瞬間に、空気が変わったのを感じたんですよね。そこで、直で当たった。僕たちのチームは失うものは全くないから、断られることを前提でずうずうしくお願いしようと思ったんです。とにかく、自分のイメージには嘘をつきたくなかったので、まずはトライして、無事にOKをいただけた。