コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第308回
2021年3月26日更新
ハリウッドの新たな中心地に!アカデミー映画博物館の内部を初公開
企画から数十年間が経過していたアカデミー映画博物館(The Academy Museum of Motion Pictures)が、いよいよ今年オープンする。4月25日(現地時間)に実施されるアカデミー賞授賞式に合わせて、バーチャル形式のプログラムからスタートし、9月30日に正式オープンとなる。
米ロサンゼルスの新名所として注目されているアカデミー映画博物館は、このたびオンラインのプレス内覧会を実施。国内外のプレスに施設の内部を詳しく紹介した。ディレクター兼会長を務めるビル・クレイマー氏の挨拶にはじまり、Netflixの共同CEOのテッド・サランドス氏が登場。アカデミー映画博物館の理事長を務めるサランドス氏は、1998年にロサンゼルスにやってきたときに「世界の映画の中心地に、フィルムセンターが存在しないなんて!」とショックを受けたと振り返る。
サランドス氏が指摘する通り、映画の都ハリウッドには中心となるべき場所が存在しない。ハリウッドにはチャイニーズ・シアターやアカデミー賞会場のドルビーシアターがあるほか、映画制作の裏側を覗きたければ、各スタジオがツアーを提供している。だが、いずれも観光客向けなので深みや広がりを欠いているし、点在しているため、歩いて見て回るには不便だ。
アカデミー賞の主催団体である映画芸術科学アカデミーは、1927年の創設時からロサンゼルスに映画博物館を作ることを思い描いてきたという。同団体の使命は、映画産業における芸術と科学の発展であり、毎年の偉業を讃えるアカデミー賞は副次的なものだ。専門的知見と卓越したキャリアを持つ人材を抱え、膨大なコレクションを所蔵する団体が博物館を作るのは必然なのだ。
アカデミー映画博物館は、ロサンゼルスのミラクル・マイルと呼ばれる地区にある。39年竣工のメイ・カンパニー百貨店ビルを大幅に修復し、寄贈者の名前からサバンビルと命名。隣に大型映画館を備えた球体の建造物を新築し、ガラスの橋で繋げている。新旧のハイブリッドとなったデザインの設計は、プリツカー賞受賞のレンゾ・ピアノ氏が手がけている。
メインロビーに足を踏み入れると、スピルバーグ・ファミリー・ギャラリーに迎えられる。天井から吊された複数のモニターで映画の歴史が足早に紹介される。なお、このエリアは入場無料だ。
1~3階は「映画の物語(Stories of Cinema)」と題された常設展が展開する。映画の技術と歴史、社会的な影響が多角的に綴られていく。
平行して複数のギャラリーが配置されており、「アカデミー賞の歴史ギャラリー」では、20体の歴代オスカー像が展示されているほか、有名な受賞スピーチを視聴できる。また、拡張現実により、アカデミー賞受賞の瞬間を体験できる「オスカー・エクスペリエンス」というアトラクションも用意されている。
「映画制作の技術(The Art of Moviemaking)」と題された常設展では、脚本からキャスティング、イメージ(撮影&美術)、アイデンティティ(衣装デザイン&ヘアメイク)、音響効果、アニメーション、特殊効果と異なる製作過程がギャラリーで紹介されていく。
4階には、「マリリン&ジェフリー・カッツェンバーグ・ギャラリー(Marilyn and Jeffrey Katzenberg Gallery)」という名の広大な企画展示スペースがある。記念すべき最初の展覧会は、日本が誇る世界の巨匠をフィーチャーした「宮崎駿展」である。北米初のレトロスペクティブとなり、宮崎駿作品の原画やフィルモグラフィーが紹介される。
バーブラ・ストライサンドの名を冠したガラス張りの橋を渡り、球体の建物に入ると、博物館の目玉となる「デビッド・ゲフィン・シアター(David Geffen Theater)」がある。1000席あるこの劇場は、フィルムからデジタルまであらゆるフォーマットに対応し、オーケストラピットまで備えている。
球体の建物は、ウォルト・ディズニー広場に浮かぶデザインとなっており、屋上のテラスからはロサンゼルスの広大な景色を楽しむことができる。このテラスは無料で開放されるそうだ。
映画博物館には、「デビッド・ゲフィン・シアター」のほかに、288席の「テッド・マン・シアター」があり、映画上映はもちろんパネルディスカッションなどさまざまなイベントが行われるという。また、幼稚園から高校3年までの学生を対象にワークショップを行う、「シャーリー・テンプル教育スタジオ」という施設もある。
「映画監督のインスピレーション(Director’s Inspiration)」というギャラリーに、自身のコレクションを提供するスパイク・リー監督は、「若者たち、とくに公立学校の必修授業にしてほしい」「若くて美しい彼らの心が映画の世界に触れることで何かが起き、『将来、映画監督になる』と言ってくれるかもしれない」と語る。
アカデミー映画博物館にインスピレーションを受けるのは、若者に限ったことではないだろう。さまざまな展示を通じて驚きや発見が用意されているので、ライトなファンから映画業界で働く関係者まで、すべての映画ファンが刺激を受けることになるはずだ。特別展や映画上映、アカデミー会員による教育プログラムなど刺激的なイベントをコンスタントに行っていけば、間違いなく映画の都の中心地となるだろう。
観光でロサンゼルスを訪れる日本の映画ファンにとって嬉しいのは、その立地だ。ザ・グローブやビバリーセンターといったショッピングセンターやロワンゼルス・カウンティ美術館やファーマーズ・マーケットといった名所の近くにある。
新型コロナウイルス感染拡大が収束した際には、ぜひアカデミー映画博物館を訪ねてもらいたい。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi