コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第259回
2014年9月17日更新
第259回:エディ・レッドメインが圧巻の演技でスティーブン・ホーキング博士に!
今、取材でトロント映画祭にきている。例年と違って、今年はまだアカデミー賞確実、という作品にはあいにく出会えていない。でも、演技部門の候補だったらたくさんいる。すでにサンダンス映画祭で観客賞をとった「ウィップラッシュ(原題)」でスパルタ音楽講師を演じたJ・K・シモンズや、「Nightcrawler」でネタを求めて夜の町を徘徊するフリーカメラマンを演じたジェイク・ギレンホールなどは確実だろう。なかでも、「セオリー・オブ・エブリシング(原題)」で、スティーブン・ホーキング博士に扮したエディ・レッドメインは最有力だ。
ホーキング博士といえば、理論物理学の権威だから、その著書や人となりはたくさんの人がご存じだろう。でも、彼の恋愛や結婚生活について知っている人はほとんどいないはず。これは元妻ジェーン・ホーキングが執筆した自伝をもとにした、天才学者の風変わりなラブストーリーなのだ。
(以下は、「セオリー・オブ・エブリシング」の内容に触れています。詳しく知りたくない方はご注意ください)
若き日のホーキング博士は、ケンブリッジ大学の大学院で、文学専攻のジェーンと運命的な出会いを果たす。当時の彼は、至って健康で、ルックスこそちょっとオタク風だけど、卓越したユーモアセンスを持ちあわせた好青年だ。ふたりは愛を深めていくものの、やがてホーキングの体に異常が出てくる。きれいな字がかけず、歩行に苦労し、やがては病院送りになってしまうのだ。
そこで、ホーキング博士は筋萎縮性側索硬化症(ALS)という治療不可能な難病を患っており、余命2年と宣告される。しかし、ホーキングを心から愛しているジェーンは怯まない。そして、あえてふたりは結婚式を挙げるのだ。
映画はそれからの結婚生活を描く。ALSの進行に伴い、ジェーンの負担は増大。そこに3人の子育ても加わる。しかし、ジェーンはめげない。そんな妻と数々の友人に支えられて、ホーキングは理論物理学のスターへと登り詰めていくのだ。
元妻ジェーンの視点からなので、ホーキング博士の発想法や彼が提唱する理論については詳しくは触れられないものの、見る人に元気を与えるラブストーリーに仕上がっている。
なにより圧巻なのは、エディ・レッドメインの演技だ。健康な大学院生時代から、病状の悪化に合わせて見事に演じ分けている。妻ジェーンを演じたフェリシティ・ジョーンズとともに、今後の賞レースで注目されるはずだ。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi